第62話ー① しおんの帰省

  ――しおんの自室。


 しおんはいつものようにアコースティックギターを片手に、オリジナルソングの練習をしていた。


「――あー、ここ。いつもミスるな……」


 手を止めて、ため息交じりにしおんはそう言った。


 それから首を横に振り、


「でも、こんなところで止まっていられないだろう! よしっ!!」


 そう言ってしおんは再びギターを弾き始める。


 せっかく真一と2人で事務所所属が決まったんだ。もっともっと上達して、必ず世界一のミュージシャンになるんだ、真一と一緒に――!


 それから数時間、しおんはギターを弾いていた。


「ああああ……やったな、今日は」


 そう言って床に寝転がるしおん。その顔はとても幸せそうな笑顔をしていた。


「さて、風呂に入って、明日の準備を――」


 そう言ってしおんが起き上がろうとした時、スマホが振動した。


「あやめからのメッセージ?」


 そしてそのメッセージに目を通すしおん。


「事務所の社長さんが会いたがってる!? それと……今後の話もしたい、か」


 まずは真一に相談してからだな。俺は構わないけど、真一はどうなんだろうな――


「考えててもしょうがない。まずは真一の部屋に……」


 そしてしおんは真一の部屋に向かった。


 それから真一の部屋の前に着いたしおんは、その扉を叩く。


「真一、いるかー?」


 すると、


「どうしたの?」


 真一はそう言って部屋から顔を出す。


「あやめから連絡があってさ! 事務所の事でちょっと話いいか?」

「わかった。入ってよ」

「おう!」


 そう言って真一の部屋に入るしおん。


「それで話って?」

「ああ、うん。これ!」


 そう言ってあやめからのメッセージを真一に見せるしおん。


「社長が会いたがっている、か……」


 画面を見せて考え込む真一。


「どうする?」

「……しおんはどうするの?」

「俺は、行くべきだと思った。これからお世話になる人だし、お礼もちゃんと伝えたい」

「そっか……じゃあ僕も賛成。行こう!」

「おう!!」


 それからしおんと真一は外出許可の申請の為、職員室へと向かったのだった。




 ――職員室にて。


「じゃあ、2人の外出申請を出しておけばいいんだな!」


 暁はしおんと真一に笑顔でそう言った。


「はい! お願いします!!」

「おう! そうか、東京か……いいなあ」

 

 暁はそう言って何かを思い出しているようだった。


「また奏多といけばいいじゃん」


 淡々とそう言う真一。


「そういうこと、クールに言うなよなぁ……まあでも、そうだな!」


 そう言って微笑む暁。


「あ、あの彼女さんですね! 東京デートか……いいな、真一!」

「別に。僕はそういうのよくわからないし」

「冷めてんな~」

「今は夢が大事。恋愛なんてしている場合じゃないってだけ」

「そう、だな! 真一の言う通りだ!! 俺たちの夢を叶えようぜ!!」


 そう言って真一の肩を組むしおん。


「だから! そういうの――! ってどうせ聞いてないよね。いつものことだけど」

「あははは!」

「相変わらず仲良しだな、お前らは! ……じゃあ外出申請、出しておくよ! また決まったら伝えるな」

「うん」「はい!」


 それからしおんと真一は職員室を出た。


「申請、通るといいね」

「大丈夫だろ! だって能力も消失しているし、まあ泊りになるかもしれないってことが唯一の問題点くらいだな!」

「うん……」

「心配すんなって! 大丈夫だろ?」

「そうだね」


 そしてしおんたちはそれぞれの部屋に戻った。




 翌日、暁から呼び出されたしおんと真一は外出申請の結果を聞いていた。


「――以上だ。すまんな。真一の外出許可を取れなくて」

「ううん。泊りになるかもしれない時点で、少し諦めてたから」

「やっぱり一緒じゃないなら、俺も――」

「しおんはちゃんと行ってきて! 挨拶とお礼、するんでしょ」


 真一はしおんの顔をまっすぐに見てそう言った。


「……わかった。事情は俺から話しておくよ」

「うん。よろしくね」


 それからしおんたちはそれぞれの自室に戻った。


 そして自室に着いたしおんはスマホを手に取り、あやめに連絡を入れる。


『今度の土日で外出許可もらった。土曜に帰るから、父さんたちによろしく』


「これで、よし」


 そして床に寝転がるしおん。


「俺だけか……大丈夫かな。大人となんて話せるかな」


 そう言ってため息を吐くしおん。


「それに実家には……」


 しおんの脳裏に母親の顔がよぎる。


「何、言われるんだろうな……はあ」


 ブーッブーッ。


「あやめから……『楽しみです!』か。ははは。そう言ってもらえるのは、嬉しいな」


 そう言って微笑むしおんだった。

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