第61話ー⑥ ずっと一緒だ!
しおんの自室前。
真一はその扉の前で大きく深呼吸をしていた。
僕の想いをきちんとしおんに伝える。そして理解してもらう。その為に僕はここへきたんだから――。
「よしっ」
それから真一はしおんの部屋の扉をノックした。
「はい」
「僕、真一だけど」
真一がそう告げると、しおんが思いっきり扉を開けて部屋から顔を覗かせた。
「真一っ! ったく、どこ行ってたんだよ!! ずっと待ってたんだからな!」
そう言って笑顔で真一に答えるしおん。
こんな笑顔のしおんに、僕は今から酷なことを告げなければならないと思うと心が痛むな――と思う真一。
「ちょっと話があるんだ。中はいってもいい?」
「もちろん! ささ! どうぞ!!」
「ありがとう」
そう言ってしおんと真一は部屋の中へと入っていった。
「それで……さっき言ってた『なんとかする』が解決したのか?」
しおんは椅子に腰を掛けてから、床に座る真一にそう問いかけた。
「そんなとこ」
「そうか。それでどうしたんだ? 契約書にサインもらったって感じでもなさそうだな」
しおんは何も持たずに来た真一を見て、そう言った。
「うん。僕……しおんの夢の邪魔をしたくはない。だから、僕は事務所には入らないことにした」
「なんだよ、それ……」
「でも大丈夫。しおんは、しおんだけは所属して。それで世界一のミュージシャンになって、僕の心を変えたみたいにいろんな人たちの心を救ってよ。しおんの音ならそれができる。僕はそう信じているから!」
「……」
「しおん?」
「言いたいことはそれだけか?」
「う、うん」
「お前の言いたいことはわかった」
しおんはそう言って立ち上がると、机に置いてあった契約書を両手で持ち、それを真一の目の前に突き出した。
「俺の夢は、ただ世界一のミュージシャンになることじゃない」
「何、言ってるの……?」
「俺の夢は、風谷真一と『はちみつとジンジャー』で世界一のミュージシャンになることだっ!!」
しおんはそう言って、両手を思いっきり横に引き、手に持っていた契約書を真っ二つに破った。
「ちょっと!? 何してんの?? それじゃ、しおんが!!」
「ちゃんと聞いてたか? 俺の夢は、風谷真一と『はちみつとジンジャー』で成功することが夢なんだ! だから俺だけが所属しても意味がないんだよ!!」
「でもそれじゃ……せっかくのチャンスだろ!?」
「そうだ。これはチャンスだ! でもな、お前みたいな相棒に出会えることなんて、きっともうないんだよ。だから真一を手放して、所属を選ぶなんてするわけがねえ! 俺はやっと最高の友人に出会えたんだ! こんなチャンスなんてもうきっとこないだろ!」
「しおん……」
僕のことをそんなに思ってくれていたのか――
「ああ。俺はお前とじゃなきゃダメなんだ! だからお前を置いてなんていけない! 真一、お前は俺とずっと一緒だ!!」
僕はまた勝手に1人で抱え込んで……信じるって決めたじゃないか。しおんと一緒に夢を見るって、そう決めたじゃないか――!
「…………ありがとう、しおん。君に出会えて、本当によかった。僕もしおんみたいな最高の友人に出会えることなんてもうないんだと思う。だからしおんがそう言ってくれるなら、僕も……ずっとしおんと一緒がいい。誰かの復讐の為じゃなく、誰かの幸せのための音楽をやりたいんだ」
真一はしおんの顔をまっすぐに見て、そう告げた。
「ああ。できるさ、俺と真一なら! だって『はちみつとジンジャー』は世界一になるんだからさ」
「そうだったね」
そう言って笑いあうしおんと真一。
ああ結局、先生の言う通りの結末みたいだ――。
それから真一たちは職員室へ向かい、暁にこれからのことを伝えた。
「僕たちは2人で世界一のミュージシャンになります」
「今度こそ、俺たちの気持ちは一つです」
暁はその言葉を聞くと、「応援しているからな」と笑顔で答えたのだった。
その後、しおんは破いてしまった契約書のことをあやめに伝えると、再発行された契約書が施設に届いた。
そして真一は暁からサインをもらい、再発行されたしおんの契約書と共にあやめの元へと送った。
「まさかこんな未来が待っているなんてね。おじさんが届かなかった、ミュージシャンに僕はまた一歩近づいたんだ」
真一が呆然とそう呟くと、
「一歩どころじゃない、だろ? それにこれからがスタートだっての」
しおんはニヤリと笑いながらそう言った。
「そんなこと、しおんに言われなくてもわかってる」
「そうかそうか」
「何その反応? なんだか腹立たしいんだけど」
「まあ、いいだろ! それよりもさ! これから何かあったら何でも言えよ? 俺もこれからはちゃんと思っていることを伝えるようにするから」
しおんがそう言うと真一は微笑み、
「……わかった」
と頷きながらそう言った。
「絶対の絶対、だからな?」
「もう、しつこいって! わかってるよ!!」
真一は頬を膨らませて、ぷんすかしながらそう言った。
「ははは! なあ」
「ん?」
「これからもよろしくな、真一」
そう言って真一に右手を差し出すしおん。
「ああ」
真一はそう言って、その手を握り返した。
それから数日後。真一の能力は消失し、無事に真一も施設から出られるようになったのだった――。
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