第29話ー④ 風は吹いている
まゆおとの共同スペースの片づけを終えた真一は、自室に戻るとそのままのベッドに寝転んだ。
そしてポケットに入っていた音楽プレイヤーを取り出し、その電源を入れる。それからベッドに転がっていたワイヤレスのヘッドホンを頭に装着して、再生ボタンを押した。
しばらくすると、そのヘッドホンから音楽が流れ始める。
「結局、片付けをしていたから『
そんなことを呟きつつ、真一は流れてくるその音に耳を傾ける。
『自分の運命に抗い、そして新たな運命を切り開いていく』
特徴的な声質のボーカルが重厚感のあるロックサウンドに、感情をありったけ込めて、その曲を歌い上げていた。
――運命なんて握り潰す。俺は俺の道を行くだけだ!
真一はその歌から、そんな強いメッセージを受け取っていた。
その曲は真一のお気に入りの曲で、ことあるごとに聴いているものだった。
「僕もこんな自分の運命を認めない。抗って、握り潰して――己の道を突き進んでやる」
そう、その曲は僕の心に炎を灯してくれる。その炎は怒りか、それとも――
真一はそんなことを思いながら、夜を過ごしたのだった。
――13年前。幼い僕と僕の両親を乗せた車は大事故を引き起こした。
その事故で関係のない人間が巻き込まれ、社会の厳しい目が事故を引き起こした真一の両親に向くようになった。そして当時まだ幼かった真一は、両親が社会からどう思われているかなんてことを知らずに日々を過ごしていたのだった。
しかし、ある日の事――
『こんな大事故を引き起こすなんて、私達にもとんだとばっちりだ。なんて迷惑なことを……』
誰が最初にそう言い出したのか――それは真一にもわからなかった。しかし親戚たちが両親のことだけではなく、生き残った自分のこともあまりよく思っていないことを真一はそれを耳にした時になんとなく察したのだった。
それから親戚たちは、大事故を引き起こした両親の子供である真一のことを目の上のたんこぶとして扱い、その真一を厄介払いするかのように親戚中でたらい回しにしていたのだった。
そして真一は物心がついたときに、僕の人生はこういう運命なんだ――と自分の境遇を自然と受け入れていたのだった。
その後も真一は親戚の家を転々としながら暮らし、
『疫病神』『加害者の子供』『お前も一緒に死んでいればよかったのに』
そんな言葉たちを行く先々で浴びせられていた。
そしていつしか学校でも『死神の子』と言われて、クラスメイトからは煙たがられるようになっていた。
僕には何も言う資格はない。だってどれも間違ってはいないから――。
真一は親戚たちやクラスメイトから何を言われてもそう思い、無意識に群れることを避けるようになっていた。そしてそのせいもあって、真一はいつも独りぼっちだった。
それから数年が経ち、真一はいつしか強い孤独感を抱くようになった。
真一は住まわせてもらっている親戚宅の小さく真っ暗な部屋で、親戚家族の楽しそうな笑い声を聞いていた。
『お父さん! 今日ね、僕ね――!』
『あははは!!』
部屋の向こうでは明るく楽しそうな笑い声が響いていたけれど、真一は誰に声を掛けられることもなくその部屋の隅で膝を抱えて小さくなっていた。
「ねえ、僕はこのままずっと独りぼっちなの……? そんなのは嫌だよ」
俯いたまま、そんなことを呟く真一。
誰も自分のことを受け入れてくれないし、信じようともしてくれない。だから周りを信じることができなくて、結局孤独のままなんだ――
それから真一はまたその親戚の家を追い出され、今度は一人暮らしをしている叔父の家に預けられることになった。
叔父はミュージシャンを目指しており、バイトやライブ活動などでほとんど家にいない人だった。そのため、何があったかを知っていても真一を悪く言うこともなく家に置いていたのである。
そしてここで僕は、音楽と運命的な出会いを果たす――
それは真一が叔父の家で暮らし始めて、1か月が経ったときのことだった。
「音楽はいいぞ。己を奮い立たせ、そして心を熱くしてくれる。だから真一も聴いてみろ」
叔父はそう言いながら、真一に使い古した音楽プレイヤーとイヤホンを贈った
きっと叔父にとって、その行為に深い意味なんてないことは真一もわかっていた。
ただ自分の好きな音楽を僕と共有したかったくらいに違いない。例えそうだったとしても、僕にとってはそれがとても嬉しかった――
それは真一が、人からもらった初めてのプレゼントだったから。
それから真一は一人の時、叔父からもらった音楽プレイヤーでずっと音楽を聴いていた。
周りが自分のことを受け入れてくれない現状は変わらなかったが、音楽を聴いていると顔も知らない歌手に自分のことを受け入れてもらえているように感じていたからだった。
「音楽があれば、僕はもう孤独じゃない。それに今は叔父さんだっていてくれる。音楽が僕を孤独から救ってくれたんだ」
それから真一は、今までで一番の幸せを感じながら過ごしていた。
しかしそれから数か月が経った後――突然、悲劇は起こる。
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