第141話 人として恥ずかしい
相変わらず俯き、「うぇ、うぇ」だの「ひっく、ひっく」だの、子供のように咽び泣きながら、イングリッドは少しずつ言葉を紡いでいく。
「わ、私は情けない。
あー、そういうことか。
今朝、集落を出る前に、昨晩あったことを、あらかたイングリッドに説明したのだが、それ以降どうにも元気がないと思っていたら、泥酔して戦いに参加できなかったことを気に病んでいたのか。
まあ実際、イングリッドがいなかったことで、かなりヤバイ状況だったのは確かだが、なんだかんだ言って、こうして皆、無事生きているわけだし、そんなに落ち込むことないのにな。
俺は、彼女を元気づけるように、すっこり縮こまってしまった大柄な体を、ぽんぽんと叩いた。
「そんな、気にすんなよ。そもそも、酒飲むまではお前が一番活躍してたじゃん。これからも、助け合っていこうぜ。仲間なんだしさ」
しかしイングリッドは、ぷるぷると首を左右に振る。
「だが、あの
そこで、俺とレニエルは顔を見合わせた。
……『幼気で無邪気なソゥラ』か。
少なくとも、イングリッドが昨日出会ったソゥラは、幼気で無邪気な要素とは無縁の、悲しい影のある少女だった。
やはり、イングリッドの記憶も、魔装ルミオラによって
イングリッドの中では、あの夜、俺たちと一緒にいたソゥラが、ピジャンによって襲われたということになっているらしい。
……正直言って、俺は寒気がした。
魔装ルミオラ――人間の精神や記憶を改竄する剣。
それも、剣を振るった相手だけではなく、離れたところにいる人々の記憶も、一斉に変えてしまうなんて。
この剣を、誰か悪意のある者が兵器として使ったのなら、恐ろしいことになるんじゃないだろうか。
まあ、レニエルの、ソゥラを救いたいという純粋な想いに応えて力を発揮したらしいので、悪人がああしろこうしろって命令しても、言うことを聞かないのかもしれないが。
あれ?
そういえば、どうして俺の記憶は改竄されないんだろう?
俺はハッキリと、精神が変調する前のソゥラのことを思い出すことができる。
ルミオラと直接会話し、ソゥラの罪を断つために剣を振るったレニエルの記憶が改竄されないのは、なんとなく分かる。
剣を振るう者は、つまるところ、剣の支配者である。
ほんの短い時間とはいえ、レニエルは魔装ルミオラの力を支配したのだ。その支配者が、剣の力によって心を変えられてしまったら、何が何やらわからないからな。
しかし、俺が特別扱いされる理由は、まったくないはずだが……
うぅん……
しばらく首を捻って考えるが、どうしてもこれといった理由が思い浮かばない。
なら、まあいっか。
考えても仕方ないことは考えない主義だ。
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