第130話 教えてあげる
『大丈夫? きみも、けっこう頑丈だね。いくら腕を上げてガードしても、衝撃で肩の関節が外れてもおかしくないパンチだったのに』
『まあね。俺の体は特別なんだ。急所に必殺の一撃さえもらわなければ、かなりの攻撃に耐えられるようにできてるのさ』
とはいえ、体力がある方じゃないから、あんまり何度も攻撃を食らいたくはないけどね。
俺は顔を上げ、どんなもんだとでも言わんばかりのマッスルポーズを決めているピジャンを睨む。
くそっ、参ったな。
あいつはとんだ化け物だ。
風のようなスピードに加えて、ぶっとい腕の強烈なパンチ。
おまけに、水晶輝竜のガントレットによるパンチが直撃しても耐えられる、タフネス。
こいつとボクシングの真似事をするのは、まさに命がけだ。
一発でも、まともなパンチを顔面に貰ったら、それで即死だろう。
全部、回避か防御しないと。
……俺のパンチは、何発当てれば、ピジャンを倒すことができるだろうか。
その疑問に、アーニャが答えた。
『さっきみたいな素人パンチなら、たぶん15発は当てないと、あの子を戦闘不能にできないと思うよ』
15発。
絶望的な数字に、目の前が暗くなった。
ピジャンの必殺の一撃を全てかわし、防ぎ、その間に、こっちは15発もパンチを当てなければ、勝てないなんて。
できるか?
そんなことが?
いや、弱気になるな。
もう、やるしかないのだ。
気合を入れろ。
ビビるな。
やってやる!
俺はチャンピオンだ!
『待って待って。そんなふうに思い込みで気持ちを盛り上げても、無理なものは無理だよ。冷静になって』
『な、なんだよもぉ。止めんなよぉ。せっかくいい感じに気合入ってたのにぃ』
しかし、アーニャの言う通りだ。
気合だけで無理が通るなら、誰も苦労しない。
かといって、他に妙案などないし、やはり自分をチャンピオンだと思い込んで戦うしか……
『だから、それは駄目だってば。ねえ、さっきの僕の言葉、思い出してよ。素人パンチなら15発は当てないと勝てないって言ったよね』
『やめろよ、絶望的な事実をまた突き付けるのは。悲しくなってくる……』
『ちゃんと最後まで聞いて。素人パンチじゃない、しっかりとしたボクシングのパンチで急所を突けば、1発で倒せるんだよ。水晶輝竜のガントレットには、それだけの力がある』
『1発!? マジか!? それを早く言えよ! ……って、駄目だ駄目だ。ぬか喜びさせんな。しっかりとしたボクシングのパンチなんて、打ち方しらないもん。無理無理』
俺は、首を左右に振って、大げさに溜息を吐く。
その情けない姿に、アーニャもまた、呆れたように溜息を漏らした。
『だーかーらぁ、最後まで聞いてって。その、『しっかりとしたボクシングのパンチ』の打ち方を、僕が教えてあげる』
『え? お前、プロボクサーかなんかなの?』
『そう言うわけじゃないけど、大体の格闘技はできるし、ボクシングは得意な方だよ』
『いったい何者なんだよお前……邪鬼眼の術みたいな変な術も使えるし、凄い武器持ってるし、よくよく考えると、こうやって人の心に入り込むみたいにして会話できてるし……完璧超人かよ』
『僕のことは、今はどうでもいいでしょ。ほら、またあの子が襲ってくるよ。腕を上げて、構えて』
『お、おう』
言われて、慌てて腕を上げる。
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