第110話 贈り物

 まあ、目の前で美味そうにもりもり食ってるのを見ると、こっちもだんだん食欲がわいてきた。

 スーリアは米食文化らしく、お椀に盛られたご飯の香りが、どこか懐かしい気分にさせてくれる。


 スプーンを使って、お米を一口食べる。

 うん、美味しい。


 多少軟らかめに炊かれているおかげで、疲れ気味の胃腸にも優しそうだ。


 ふと、隣を見ると、レニエルも俺と同じようにちびちびとご飯を食べながら、時折不思議そうに首を捻っていた。


「どうした?」

「いや、どうしたってことも、ないんですけど、うーん……」

「それだけ首捻ってて、どうしたってこともないこたないだろ。気になるじゃん」

「あの、何か、引っかかるんですよね。さっきの、ウーフさんの言っていたこと」


 やっぱり。

 こいつも、何か変だと感じたんだな。


「俺も、変だと思ったんだよ。でも、具体的に何が変なのか、よく分からなくってさ。お前は、どこがおかしいと思った?」

「あのですね。あれだけ、ピジャン神のお……」


 言葉の途中で、もぞりとテントの入り口が開く。

 何だと思ってそちらを見ると、ウーフの妹、ソゥラだった。

 意外な来客に驚いていると、彼女は深々と、俺たちに向かって頭を下げた。


「昼間は、失礼な態度を取って、すいませんでした。あなたたちがスーリアを発つ前に、それだけは謝っておこうと思って……あの、これ、良かったら皆さんで飲んでください。スーリアの地酒です」

「あ、これはわざわざどうも。昼間のことなら、全然気にしてないから、そんなふうに気を遣わなくてもいいのに」


 本当に気にしていないのだが、それでも、こうしてこちらのことを気遣ってもらえると、やはり嬉しい。


 俺は笑顔で酒瓶を受け取ると、脇に置いた。

 それをイングリッドがひったくるように持っていったが、まあ、どうでもいいことだろう。


「いえ、それじゃ、私はこれで」


 そう言ってささやかな笑みを作るソゥラ。

 ……まだ子供と言ってもいい年齢なのに、なんて寂しげで、影のある笑い方をするんだろう。

 もう少し彼女のことが知りたくて、何か声をかけようとするが、どうにも話題が思いつかない。


 うーん。

 何か、いい話のタネはないかな。


 そうこうしているうちに、ソゥラは身を翻し、緻密な刺繍が施された彼女のスカートが、ふわりと舞った。

 これだ、と俺は思う。

 ちょっとした好奇心もあり、俺はソゥラに問いかけた。


「あのさ、ちょっと聞いていい?」


 テントの入り口をくぐりかけたソゥラが、立ったまま、こちらを振り返る。


「なんですか?」

「きみの服、それ、スーリアの民族衣装じゃないよね。俺たちの住む地方――イハーデンのものじゃないか? それも、かなり良い物だ」


 ソゥラは黙り込み、しばらくしてから、言った。


「……贈り物なんです。イハーデンの商人さんからの」

「へぇ、よく似合ってるよ。こんなに良いものをプレゼントしてくれたんだ。きみに気があるのかもね。また、装飾品なりなんなり、プレゼントしてくるかもよ」

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