第60話 時は来た
「ふっ……変わったやつだよ、まったく。おっと、そういえば、ぬしの問いにまだ答えていなかったな」
「俺の問い? なんだっけ?」
「『犬のように腹を見せて謝罪すれば、あの女が許してくれるか』と、聞いていたではないか」
「ああ、そういやそうだった。で、どうなの?」
「簡潔に言おう。答えはNOだ」
バッサリ言われても、別にショックではなかった。
まあそうだろうなとは思ってたし。
「あー、やっぱり……」
「奴は頭が悪いのにプライドの
「そんじゃ、どうにかして逃げる方法を考えるしかないかー……」
「それも無理だろう。奴は魔装『コユリエ』のオーラ探知能力を使って、ぬしをどこまでも追ってくる」
そうでした。
まったく、やっかいな魔装が、やっかいな奴の手に渡っちまってるもんだ。
俺は、深く嘆息しながら言った。
「はぁ、万事休すか」
「いや、そうでもない。ここはシンプルに、奴を叩きのめしてしまえばいいだけだ」
「おいおい、それができそうにないから困ってるんじゃん。お前も『ぬしの勝ち目は、万に一つもない』って言ってただろ?」
「ぬしだけならな。我が力を貸せば、あんな小娘。敵ではない」
「どゆこと?」
意味がよく分からない俺に、ジガルガはふふんと笑い、胸を張って答えた。
「なに、簡単なことよ。決闘の間だけでいい。ぬしの体を我に貸せ」
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そして、約束の時間は来た。
離れていたレニエル・タルカスと合流し、俺たちは決闘の場である町はずれの広場へと向かう。昼下がりの通りでは子供たちが思い思いの遊びに興じており、とてものどかな風景だ。
これから命がけのデスマッチに臨むのでなければ、俺も穏やかな気持ちでそれを眺めることができるのだが……
「やはり、危険すぎる。やめておくべきだ」
歩みを続けながら、タルカスが首を捻って明後日の方向に向かって言う。
俺に直接話しかけると、緊張してカタコトになってしまうからだろう。
雲突くような大男が、首を大きくひねって、誰もいない空間に話しかける姿は、喜劇じみたユーモラスなものだったが、その声色から、彼が真剣に俺の身を案じてくれていることが良く分かった。
「俺も、やめられるものならやめたいけどね。あの女はそれを許さないだろうし、まあ、やるしかないよ」
半分自棄になったような笑みを浮かべながら俺が笑うと、それまで無言だったレニエルが口を開く。
「……こうなったら、僕の身分を明かしてしまいましょうか。そうすれば、彼女も聖騎士の一人である以上、王に対する報告義務がありますから、決闘どころではなくなるはずです」
「おいおいおい、そんなことしたら、お前がどうなるか分かんないだろ。やめとけって」
「しかし、このままでは……」
心配そうなレニエルを元気づけるように、俺は肩に乗ったままのジガルガを指さして笑う。
「大丈夫だって、俺には頼もしい参謀がついてるから」
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