第3章 秋の戦い

第23話(1) 河原の愚痴

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「あ~疲れたぁぁぁ‼」 


 八月のある日の夕暮れ、時代錯誤感のあるロングスカート姿の美少女、龍波竜乃たつなみたつのちゃんが河原で叫び声を上げます。


「うっとうしいから叫ぶの止めなさいよ……」


 そんな彼女の様子を見て、短めのツインテールがトレードマークの美少女、姫藤聖良ひめふじせいらちゃんが呆れ気味に呟きます。


「あ~疲れたぁぁぁ……‼」


「だから小声で言えば良いってもんじゃないのよ!」


「だって疲れたもんは疲れたんだからしょうがねえだろう! ピカ子!」


「アタシに当たらないでよ!」


「そりゃあピカ子は充電できるからいいだろうけどよ!」


「出来ないわよ! そんなこと!」


「あ~しんどい!」


 竜乃ちゃんが自分の髪を掴んでぐしゃぐしゃにします。綺麗な金髪が傷んでしまってはいけない、そう思いながらお団子頭が特徴的な私、丸井桃まるいももは口を開きます。


「もぐもぐ……夏の暑さもようやく一段落したからね。練習量を増やすんじゃないかな?」


「ちょっと待てよ、ビィちゃん……まだしんどくなんのか?」


 竜乃ちゃんが愕然とした表情で私を見つめてきます。ビィちゃんというのは、竜乃ちゃんが私に付けたあだ名です。彼女は聖良ちゃんに対するピカ子といい、独自のあだ名をつけたがります。聖良ちゃんが笑います。


「夏の合宿は秋以降に向けた体力作りよ、しんどいのは当たり前でしょう」


「マ、マジか……」


「マジよ」


「なんでちょっと嬉しそうなんだよ、ピカ子」


「自分自身が鍛え上げられているのを実感するからよ」


「うへ……体育会系の考えることは理解出来ん」


 竜乃ちゃんが舌を出します。


「そういえばアンタ、中学の時に部活はやっていなかったの?」


「帰宅部のスーパーエースだよ」


「嘘⁉」


「んなことで嘘ついてもしょうがねえだろう」


「あれだけの身体能力をどこで手に入れたのよ?」


「手に入れたって……気が付いたらこうなってたよ」


「生まれ持っての才能ってやつ? いやになるわね……」


「体育祭とかは好きだったけどな」


「もぐもぐ……リレーとか?」


 私が尋ねます。竜乃ちゃんが笑います。


「そうそう、アンカーを任されることが多かったな」


「もぐもぐ……体を動かすこと自体は嫌いじゃないんだ?」


「それはそうだな」


「ケンカとかに明け暮れてそうね」


「人をイメージで語んな、ピカ子。まあ、半分当たっているが……」


「当たってるの⁉」


「絡まれている同中のやつを助けたついでとかだよ」


「お願いだから暴力沙汰は勘弁してよね……」


「自分からケンカを売ることはねえよ、それに今は夢中になれるもん見つけたからな」


「なに? ク〇リ?」


「違えよ! サッカーだよ!」


 そう、私たち三人は仙台和泉せんだいいずみ高校のサッカー部に所属しており、今は練習の帰り道です。


「夢中なら文句を言うのやめなさいよ」


「文句くらい良いだろうが、こんなに夏の練習がキツいと思わなかったんだよ」


「もぐもぐ……ゲームで言うレベル上げみたいなものだと考えればいいよ」


「へえ……なるほど、レベル上げね、ってことは、今は経験値を貯めている段階ってところか……そう考えてみると、わりと楽しいかもな」


 私の言葉に竜乃ちゃんが笑います。聖良ちゃんが呆れます。


「単純な思考ね。そのゲーム脳、なんとかなんないの?」


「あ、さっきからなんだよ、ケンカ売ってんのか、ピカ子?」


「もぐもぐ……やめなよ、竜乃ちゃん」


「いや、こいつの方から……って、ビィちゃん、さっきから何を食ってんだ⁉」


「え? 『なんてスパゲティ人生』だよ! やっぱり運動の後は炭水化物だね!」


「な、何種類のパスタを使ってんだ? それにその量、山盛りってレベルじゃねえぞ……」


「見ているだけで胸やけしそうね……どこで売っているのかしら?」


 何やらぶつぶつ呟いている二人をよそに、私は色とりどりのスパゲティに舌鼓を打ちます。

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