第7話︎︎ 悪い子にはおしおきの時間
姫に対して、何かをしようという計画が進行している。
それを阻止するために、俺はコネというコネを使うつもりだ。
まずは姫に気づかれないに、護衛をつけることにした。
一週間の内という期限があるから、いつまでかは分からないよりは頼みやすかった。
これで気配を完全に消す忍者のような護衛が、四六時中姫を見てくれる。
害を与えられる心配は無くなったから、次は犯人探しすることにした。
情報通でも見つけられなかった犯人を、どうやって探し出すのか。
先ほども言ったように、コネを使いまくる。
気配を完全に消す護衛がいれば、情報収集に特化した人間もいる。
本来なら頼むのに時間と金がかかるが、ここはお坊ちゃま校である。どちらも有り余っているぐらいだった。
完全に金と権力に物を言わせて、そちらも本日中に来てくれる予定だ。
そうなれば一時間もしないうちに、誰が首謀者なのか分かるだろう。
それが分かれば、後は俺だけでもなんとかなる。
全ての手配を終えた俺は、保健室で普段の仕事を進めていた。
さっさと終わらせて、これからやることに集中したい。
俺の気持ちを察してくれたのか、今日は相談しに来る生徒もいなかった。
そのおかげで仕事がはかどり、いつもよりもずっと早く終わらせることが出来た。
誰も来なければ、こんなにも早く仕事が終わるのかと感動したぐらいだ。
コーヒーをゆっくりと飲む時間の余裕があり、給湯室で淹れてから戻ると、机に見知らぬ書類が置かれていた。
「早いな」
予想以上に早かったので、少し驚いてしまう。
俺はコーヒーをこぼさない位置に置くと、書類を手に取った。
「おー、さすが」
中身はこの短時間で調べたとは思えないほど、とても細かいところまで書かれていた。
犯人の性癖なんて、別に必要ないと思うのだが。まあ、いいか。
犯人が今日の放課後いるだろう場所も特定されていて、プライベートも何も無かった。
時計を見れば、まだ放課後まで時間がある。
俺はもう少し準備をするかと、椅子からゆっくりと立ち上がった。
♢♢♢
放課後、一人で立っている後ろ姿を、俺は少し離れたところで観察していた。
きょろきょろと辺りを窺っているようだが、全くこちらには気づいていない。
そこまで気配を消しているつもりは無いのに、危機感が足りなさすぎる。
まだ出るのにはタイミングが早いので、そのまま待っていれば、新たな人物が登場した。
一目見て柄の悪そうな、不良というよりもチンピラに近い雰囲気の男と、こそこそと相談し始める。
そろそろいいか。
俺は二人とも逃がさないように、最短距離で向かうと、まずは体の自由を奪った。
「なっ!?」
「うわっ!?」
驚いた声を上げるが、もう遅い。
手足を拘束し、まるでアオムシのような状態になった今、俺が許さない限りは逃げることは出来なかった。
「はーい、どうも。俺のことはまさか分かるよな?」
地面に這いつくばっているから、わざわざしゃがみこみ視線を合わせれば、その表情が驚愕に染まる。
「あんたは!」
「養護教諭の!」
「せーいかーい。良かった。これで知らないとか言われたら恥ずかしかった」
こんなに自信満々に聞いておいて顔も名前も覚えられていなかったら、悲しくて学校にいられなかったかもしれない。嘘だが。
「それじゃあ、頭のいいお前達なら、なんで俺がここにいるのか分かるよな?」
「分かるわけないだろ!」
何でもすぐ答えを言ってしまうと、生徒のためにならない。
そういうわけで優しく問いかければ、キレられた。
最初にいた主犯の男は、生意気そうな顔をしている。
でもそこまで鍛えていると言った感じじゃないから、きっと計画だけ立てて、実行するのは後から来たチンピラ風の方だったのだろう。
だからといって罪が軽くなるわけではない。
「分からないのか? このタイミング、この状況、計画がバレているってなんで気づかないのかな。馬鹿なの?」
「なんで!?」
「おい! なんでもうバレてんだよ!?」
「知るわけない! お前が誰かに言ったんじゃないのか!」
「そんなことするわけねえだろ!!」
「はっ! どうだか」
俺の言葉に勝手に言い争いを始め出したので、このまま見守っていれば自滅しそうだ。
でもそれじゃあ面白くない。
せっかく色々と使ったのだから、もっと楽しませてほしい。
俺は注意をこちらに向けるように、大きな音を出して手を叩いた。
「はーい、ちゅーもーく」
そうすれば言い争うのを止めて、視線が集中する。
「未遂といえば未遂だけどなあ。暴力ではないとはいえ、拉致しようとするのが駄目だろ」
今回の計画は、姫が一人になったところを狙い拉致をするというお粗末なものだった。
たぶんだが、あそこまで変態に愛されていて一人になる時間なんてほとんど無いだろうし、護衛もつけていた。
実行する前から失敗するのが目に見えていたので、逆に感謝して欲しいぐらいだ。
おそらく実行していたら、もっと悲惨な目に合っていた。
変態ヤンデレ共のことを、全く分かっていない。
あいつらは好きなものが絡んだら、話の通じる相手じゃないのだから。
「あ、あんたには関係ないだろ! ただの雇われのくせに!」
ようやく状況が理解出来てきたのか、俺に噛みつき出して、その勢いの良さに思わず笑ってしまう。
「何笑ってんだよ! あんたなんか、お父様に言いつければ簡単に」
「みんなよくそのセリフを言うけど、恥ずかしくないのか。それって自分の力じゃどうにも出来ないって、負けを認めているようなもんだと思うんだけどな」
「うるさいうるさいうるさい!」
分が悪いと感じると、大声を出せばいいと思っている辺りが、完全に子供だ。
手足を拘束されているのにも関わらず、モゾモゾと動いていて見苦しい。
訴えを聞く理由は無いから、俺は顔すれすれのところに足を置いた。
「ひっ」
勢いが良かったせいか、小さな悲鳴が上がるが、顔に当てたわけじゃないから構わないはずだ。
「お前達の家庭の事情とか、今回の計画をやろうとした理由とか、俺には全く関係無いな。というか何を言ったところで、言い訳にしか聞こえない」
何を言われても、判決を下すのは俺じゃない。
そして可哀想なことに、二人とも有罪だ。
「殺さなければいいらしい」
「……は?」
「なにが?」
現実を受け止められないのか、分かっているくせに聞いてくるから、俺はことさら良い笑顔を浮かべて顔を近づけた。
「まあでも俺は優しいから、ちょっと痛いぐらいで許してやる。使い物にならなくても、代わりはいるだろうからな」
さすがに不能にはしないが、少しぐらいなら大丈夫だろう。
俺は足を振り上げ、そして勢いよく振り下ろした。
おいたをした悪い子に、俺のストレス発散も兼ねて、おしおきを行った。
それは予定通りのことなのだが、全くもって想像だにしなかったことが起きた。
何をどうとち狂ったのか知らないけど、ドMに進化してしまった。
俺のことを、様づけで呼びながら保健室に特攻をかけてくるせいで、俺に対して変な噂が出回るはめになった。
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