第76話 あの二人を見ていれば、アースさんにどんな想いを抱いているのかは大体わかりますよ
「アース、あっちの屋台見に行くわよ」
「アースきゅん。次はリーンちゃんに付き合って」
あれから、全員で行動することになり、皆で古い建造物やら、店やらを見て回っている。
リーンとラケシスは、ようやく合流できたアースと楽しいひと時を過ごそうと、順番に声を掛け、彼の手を取るのだが……。
「あの三人は相変わらずだなぁ……」
こんなところまで追いかけてきたわりに、する行動が普段と同じ。カタリナという強力なライバルがいるとわかっているのか、ライラは疑問を浮かべる。
ライラはこっそりと、隣を歩く女性を観察する。
長いまつ毛に澄んだ瞳、形の良い唇から白い吐息が漏れる。
彼女は噂通りの……、いや噂以上の美少女で、憂いに満ちた瞳をアースへと送っていた。
「ライラさんは、あの三人の関係について御存知でしょうか?」
見ていたライラに気付いていたのか、意図的に二人きりになったのか、カタリナは探りを入れ始めた。
「あの二人を見ていれば、アースさんにどんな想いを抱いているのかは大体わかりますよ」
リーンとラケシスに巻き込まれてブレスまで来たライラだが、二人が生半可な想いでアースを追いかけてきていないことくらいは解っている。
「カタリナ様も、アースさんのことを?」
噂の聖女の色恋話に首を突っ込むのは無粋かと思うライラだったが、せっかく話を振ってきてくれたのだからと突っ込んだ質問をしてみることにする。
「ええ、私はずっと幼いころから、彼を……アース様をお慕いしておりますから」
「うーん、これは強敵すぎるかも?」
柔らかい笑みを浮かべアースを見るカタリナ。長年思い続けていたことを話す彼女には照れもなく、彼女が想いを告げればそれだけで勝負が決まってしまうのではないかとライラは考えた。
「ん?」
ふと、良くない気配を感じたライラは周囲を見回す。
これでも一流の冒険者として活動しているので、勘は鋭い方なのだ。
「どうかされましたか?」
カタリナが首を傾げて聞いてくる。
「あっ、いえ……、ちょっと離れすぎてるので合流しましょう」
そう告げたライラは、カタリナを守れるように立ち、三人と合流する。
「リーン、ちょっと……」
「ん、どしたの? ライラ?」
「多分、何者かに見られている気がする」
こういうことは、自分よりもリーンの方が向いている。
「おっけー、後はリーンちゃんが警戒するね」
彼女は目付きを鋭くすると、周囲に意識を向けるのだった。
「はぁ、疲れたぁ」
旅館のテーブルに突っ伏したアースは、疲労をにじませるとそう漏らした。
「どうしたのだ、アース殿?」
「そんなに歩き回ったのか?」
道場から戻ったベーアと観光から戻ったケイは、アースのただならぬ様子を気にする。
「実はリーンさんとラケシスさんとライラさんがが来ていて、カタリナと五人で色々見て回ったんですよ」
今日、カタリナと一緒に行動することについては事前に話をしている。
ベーアは道場に行く予定だったのだが、ケイは特にどこに行くと決まっていた訳ではないので誘ったのだが「俺は止めとく。恨まれたくないし」と苦笑いを浮かべ断られていた。
「へぇ、あの三人がねぇ」
「何でも、元々ライラさんの聖地巡礼に付き合う予定だったらしくて、偶然会ったんです。こんな遠く離れた場所で再会するなんて凄いですよね」
「……そうじゃな」
ケイは当然として、ベーアもそんな言葉を信じていない。
リーンとラケシスがアースに想いを寄せているのは明らかだったからだ。
「リーンさんとラケシスさんの着物が凄く綺麗だったんですよ。流石は古都ブレス。着ている姿をじっくり見られて満足しました」
アースは古い文化や文明に並々ならぬ興味を持っている。知り合いが着物を着てくれたお蔭で堪能できたので、その時の感動を二人に語ってきかせた。
「なんか、あの二人が報われないな……」
「仕方なかろう、こればかりはあの二人の勇気のなさが招いた結果ともいえる」
鈍いアースがいけないのは元より、ここまできて素直な気持ちを告げない二人にも問題がある。
「それで、その三人はどこにいるんだ?」
ここまで姿を晒したのなら、別行動をとらないはず。そう読んでいたケイだったが、賑やかさをまったく感じないことに首を傾げる。
「なんでも『やることがあるから』って言ってどこかに行ってしまったんですよね。せっかくだから食事を一緒にと思って誘ってみたんですけど……」
「それはなんとも……」
「おかしいな?」
アース目的で追いかけてきたにしては、行動が妙だ。二人は首を傾げるのだが……。
「何か真剣な顔をしていたんですけど、どうしたんですかね?」
アースはアゴに手を当てて考えると、二人の表情を思い出していた。
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