第69話 いいから! 今火をつけるから見てなさい!

          ★


「はっくしょん! さ、寒いっ!」


 リーンはがたがたと震えると必死に火を起こそうとしていた。


 遠く離れた場所では賑わいが起こり、アースたちが楽しそうに宴会をしている。ここで彼らに見つかるわけにもいかず、三人は羨ましそうにその光景をみていた。


「悪路で揺れて腰は痛いし、野営の料理は散々だし……修験者の気持ちがわかってしまいまいしたよ……」


 ライラは腰を叩きながらぼやく。

 アースたちの後を追いかけたせいで、道中宿がない、修験者が進むような険しい道を通ることになったからだ。


 どのようなルートでブレスを目指すか聞いておらず、まさか野宿すると思っていなかったリーンたちは、準備をまったくしておらず、今も寒空の中、ようやく集めてきた木の枝を燃やすのに苦労していた。


「やっぱり、しけっている枝じゃ無理だよ……」


 種火となる薪があれば、乾かし燃やすこともできたのに、それがないために苦労している。

 夜が更けるにつれ、気温が下がるので手が震え、言うことをきかなくなってきた。


「ああもうっ! あっちは美味しそうで楽しそうなのにっ!」


 本来なら、アースの手料理を食べるのは自分の特権だった。リーンは悔し涙を流すと、美味しそうに料理を食べる修験者や巡礼者を見る。


「ううう、私だけでもあっちに混ぜて欲しい」


 特に身バレを気にしないライラ。彼女だけなら合流しても言い訳が立つのだが、リーンとラケシスは裏切ることを許さない。


「寒いわよ、早く火をつけなさい」


 いい加減、我慢が限界にきたのかラケシスも口を出してくる。


「ラケちん、料理の方は?」


「アースの見様見真似だけど、後は火を通せば完成するわ」


 ラケシスは料理の仕込みをしていた。もっとも、肉や野菜を串にさして準備しただけなのだが……。


「ああっ!」


 その時、突風が吹き、リーンが用意していた種火を消してしまった。


「嘘……また一からやり直しなの?」


 ライラが絶望の表情を浮かべる。ここまで寒さを我慢して空腹にもなっているのに、さらに我慢しなければならないからだ。


「二人とも、どいてなさい」


「えっ、ちょっと……ラケシスさん?」


 ラケシスは杖を持つと、その先から火を出す。


「や、あ、危ないっ! 危ないですからっ!」


 元々魔力量が多く、細かい操作が苦手なラケシス。彼女に火種を頼まなかったのは、危険すぎるからというのが理由だ。


「いいから! 今火をつけるから見てなさい!」


 冷静さを失っているせいか、火が揺らぎ、次第に大きく膨らむ……。


「いやああああああああああ」


「ちょっと、ラケちんっ!」


 ライラの叫び声にリーンが反応するが……。


 次の瞬間、串焼きは焼け焦げ、一瞬火柱が天を焦がすのだった。


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