第42話 今度聖女様が来るらしいぞ
「今度聖女様が来るらしいぞ」
今日も今日とてアパートでアースの手料理を食べていたところ、ケイがカーシーを片手に話題を振る。
「えっ? 聖女様って教会総本山にいるあの?」
リーンは驚きの表情を浮かべるとケイに疑問を返した。
聖女とは治癒士の総本山である教会が認定している凄腕の治癒士のことだ。
男なら聖人と呼び女なら聖女とよぶ。
「それはそれは、誰か重要人物が怪我か病にでも冒されたのかの?」
ベーアはアゴに手をあてるとそんな推測をたてた。
通常、怪我をすれば治癒士が魔法で治してくれる。
病気に関しても同じだ。
だが、時に普通の治癒士では手に負えない大怪我や大病も存在する。
そんな状態に対し治療を行うのが聖女だ。
協会は多額の寄付と引き換えに聖人や聖女を派遣し治療をさせる。なのでベーアは要人が怪我をしたのだと思ったのだ。
「この前隣町でテロ活動があったでしょ? その慰労を兼ねて訪問してくるらしいぞ」
ケイのその説明にラケシスが苦い顔をした。ほんの1ヶ月前にあった事件にラケシスとリーン、アースは巻き込まれていたからだ。
「それにしても詳しいねケイ」
「そりゃそうだろう。何せ今度来る聖女様は年の頃は17歳と歴代の聖女の中でも若い方だし、凄い美人って噂だからな。男の冒険者は皆噂してるぞ」
「ふーーーーーーん。そうなんだ?」
「これだから男ってのは……最低ね」
リーンとラケシスが氷のオーラを纏うとケイは頬を引くつかせる。
「なんだよ。別にいいだろっ! 俺たち冒険者に必要なのはお淑やかな女性なんだよ。間違っても男に向かって魔法をぶっ放したり発動した罠の盾代わりに使うやつじゃねえ」
女性の冒険者は気が強い。なので大抵の男冒険者は聖女という言葉に弱かったりする。傷ついた身体を癒してくれて笑顔を向けてくれるのだから当然だろう。
実際、男冒険者で治癒士の女性と結婚する人間は一定数いるのだ。
「なにさっ! リーンちゃんの肌を守れて喜ぶところだよ!」
「別にケイに何を思われても気にしないし」
3人が喧嘩を始めると……。
「何やら皆さん楽しそうですね」
カーシーが入ったカップを持ったアースが現れた。
洗い物などの片づけを終えたらしい。
「別に……なんでもないわよ」
「そうそ、それよりアースきゅんさ――」
アースが会話に加わったことで話題が流される。
カーシーの匂いを漂わせながらいつものアパートの夜が更けていくのだった。
「さて、今日も【リバイブポーション】作りを続けるか」
いつものようにアパートの住人の世話を終え、ラケシスに転移魔法でログハウスまで移動させてもらったアースは『袋』を取り出した。
「まずは、摘んできた虹薔薇の花弁を機材に入れて……」
アースは虹薔薇から花弁を丁寧にちぎると機械へと入れる。
これは上から圧力をかけて汁を絞り出し下の瓶に溜めるための道具だ。
アースが花束を10は作れそうな数の虹薔薇を処理すると……。
「うん、これで半分ぐらいは溜まったな」
小瓶の半分ほどを液体が満たしている。
「付与させるための他の部分も問題ないようだし」
絞り出す機械と小瓶の間にはいくつもの層にわかれた材料が敷き詰められている。
まず一番上に『星屑』次に『月粉』その下に『陽楼』などなど。
これらを通ることで虹薔薇の成分が変化しリバイブポーションの元になるのだ。
それらの材料も作るのに面倒くさい工程や高難易度の技術が必要なのだが、アースに限って言えばレシピもコツも全ての製造をマスターしているため、問題なく作ることができた。
「このままでもそれなりの効果は発揮するけど、聖力を込めたら能力が相当跳ね上がるんだよな」
リバイブポーションの再生力を高めるには治癒士に協力して聖力を注ぎこんでもらう必要がある。
「できれば力量が高くてあと腐れなくて秘密を守ってくれる人が良いんだけど……」
ここにきて製造工程が止まる。アースにはその心当たりがなかったからだ。
「まあ、まだ半分もあるし量産体制になるまでにお願いできそうな人を探せばいいか」
アースは気楽な様子で頷くと、他に作っている世に出すのを憚られるアイテムの具合を見に行くのだった。
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