第37話 ラケちんはエロい!
テーブルを囲んで4人が座っている。
アースは急な来客に嬉々として追加料理を作り始めたので4人はお互いに何か言いたそうにしながらも黙り込んでいた。
「ずるいよ師範!」
「お、おう。唐突になんじゃリーン殿?」
リーンは目を大きく見開くとベーアの皿の上に置かれたピザを見た。
「おお、これか。これはアース殿が作ってくれたピザじゃな」
忘れていたとばかりに口を開くとピザを押し込む。
3人がそれを恨めしそうな目で見ていることにベーアは気付かないふりをした。
「うむ、少し冷めてしまったがそれでも美味い。焦げたチーズの香ばしさと生地のパリパリとした硬さ。口にいれることで様々なスパイスが舌を刺激するわい」
「ああああああああああーーーーっ!!!」
その評価にリーンは涎と涙を流して悔しそうな声をだした。
「ベーア師範。山籠もりの修行じゃなかったのかよ?」
流石のケイもこれには反感を覚えたのか鋭い眼つきでベーアを非難する。
「いや、ワシは普通にさっきまで山籠もりをしておったよ? じゃが、アース殿があの様子でな」
ログハウスの周りにはいろんな設備が用意されている。ベーアが目を離している間にアースが作った鍛冶やら製薬やら食材などを作るための大掛かりな装置だ。
「ほんとうにあいつ、ここに住み着きかねないわ。見に来てよかったわね」
ラケシスはアースが「戻らない」というようならここを爆破しようかと冗談交じりに考え始めた。
「お待たせしました。特製の窯を使ったピザになります。熱いので舌を火傷しないように気を付けてくださいね」
そうこうしている間にもアースが焼きたての料理をもってテーブルへと戻ってきた。
「うわぁ~。これだよこれこれ! やっぱりリーンちゃんはアースきゅんの料理がないと生きていけない」
目を輝かせてピザを見るリーン。
「確かに。リーンじゃないけどこの料理が食べられるなら山奥まで来たかいがあったな」
そういうとケイは自分の元にピザを引き寄せる。
「私はたまたまきただけだけどね」
ラケシスはぶっきらぼうに呟くが、視線は完全にピザへと固定されている。
「皆さんにそう言ってもらえると嬉しいですよ。いくらでも作るので一杯食べてくださいね」
最近は自分の分の料理しか作っていなかったので物足りなかったアース。全力で3人をもてなすのだった。
空は暗く星が輝く。周囲からは湯煙が立ち昇るなか、光の玉が浮かび周囲を照らしている。ラケシスが放った照明魔法だ。
「いやぁ。本当にアースきゅんは反則だよね。屋外でこんなに美味しい料理を振舞うなんてさ」
リーンは機嫌よく桶を手に取るとお湯を汲み身体に掛けた。
「それにしても完全に目的を忘れてるじゃない。あのまま放っておいたら本当に半年は戻ってこなかったわよ」
横に座ったラケシスは溜息の出るようなプロポーションを惜しげもなくリーンに見せつける。
「な、何よ?」
恨めしそうな視線を感じたラケシスは戸惑いながらもリーンを見る。
「リーンちゃんにその身体があればアースきゅんを誘惑するのににゃー。ラケちんはエロい!」
「えっ、エロっ!? あんた何を言い出すのよっ!」
どこまで本気かわからないリーンの言葉に動揺する。
「そうだ。アースきゅんがリーンたちに渡してきた頭髪洗剤使おうよ」
そういって渡されたカゴから乳白色の液体が入った瓶を取り出した。
「ふーん、不思議な感じね。あいつが作ったってのが一番気になるんだけど……」
液体からは花の香りが漂ってくる。アースからは手作りだと聞かされている。
「まあまあ。せっかくアースきゅんが用意してくれたんだし使おうよ」
2人はてのひらに液体をつけると頭を洗い始めた。
「なにこれ、泡が溢れてくるわよ!」
「えっ? ラケちんなんて言ったの?」
耳を泡で塞がれたリーンはラケシスの声が聞き取り辛かった。
「うぎゃっ! 目、目に入った! ラケちんお湯頂戴っ!」
リーンの苦しそうな声を聞きながらラケシスは目を閉じる。アースも泡が目にはいることを注意するのを忘れていたためリーンの犠牲で気付いたのだ。
結局リーンは目を封じられた状態で手探りで桶を掴むと頭からお湯をかぶった。
「ううう、目が痛いよぉ」
目をグシグシとかくリーン。
ラケシスは目をつぶった状態で頭をワシャワシャと洗い続けると。
「安心しなさい。あいつが勧めてきたんだから害はないはずよ」
ラケシスはアースが危険な物を自分たちに渡すはずがないと信じていた。
ちゃっかり自分だけ難を逃れたラケシスにリーンは口をすぼませると不満げな視線を送る。
「リーン?」
そして何かを思いついたのか、背中に立つと……。
「ラケちんっ! 隙ありだよっ!」
「ちょっ! 何するのよっ! きゃああああああああああっ!」
ラケシスの胸を後ろからこれでもかというほどに揉みしだくのだった。
「あっ、お帰りなさい。果実水をどうぞ」
風呂から戻ってきた2人をみたアースはコップを差し出した。
「ところでリーンさん、どうして泣いているんですか?」
頭にコブをこさえたリーンと顔を真っ赤にして不機嫌な様子をみせるラケシス。
「別に何でもないわよっ!」
ラケシスは身体を庇うような仕草をするのだが、アースは首を傾げた。
「うん? 2人とも髪に艶がでているな? それに良い香りがする。これは薔薇の香りか?」
ケイが鼻を引くつかせると、アースは嬉しそうに説明を始めた。
「これはミトンツリーから採れる樹脂を洗剤に調合してそこに薔薇から抽出したオイルを混ぜ合わせて香りつけした頭髪洗剤なんですよ」
「へぇ。どうりで良い香りがするわけだな」
「ミトンツリーは肌に優しい液体で、髪を整えてくれるんですよ。だから2人に使ってもらったんですよ」
「本当だ。ラケちんの髪も肌もつやつやしてて綺麗」
「それはあなたもよ」
お互いに褒めあう2人。自分の肌や髪がこれだけ綺麗になっているのかと思うと自然と頬が緩んでくる。
そんな2人にアースは満足げに笑うのだった。
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