第11話 食後のデザート食べますか?

「いやはや、風呂は気持ちよく飯は美味い。アース殿は良い婿になれるであろうな」


 あれから、風呂から上がり料理を作った。せっかくなので皆で食事をしようということになり食堂に集まっている。


 アースの向かいにはケイが、横にはリーンが座り険しい視線をベーアに向けていた。


「ベーア師範。アースきゅんに余計なこと言わないでよ」


 リーンはベーアの視線からアースを庇う様に顔を出すのだが……。


「リーンさん? 流石にそれは言い過ぎじゃないですかね?」


 何も知らないアースはベーアに冷たい言葉を投げるリーンに批難をぶつけた。


「ううう、そんなつもりじゃないんだよぉ……」


 いっそ、すべてをぶちまけたらどうかと考えるリーンだったが、ベーアがゲイであることを知ったアースがこのまま帰ってこなくなるかもしれないと考えると、打ち明けることができない。


「まあいいです。それよりそろそろデザートにしましょう。カーシーに合うケーキを作ったんですよ」


 そう言って運んできたのはチョコレートの実がたっぷり塗られたケーキだった。


「うわぁ……こんなの作れるなんてアースきゅん大好き。嫁にきて!」


「いえ、僕は男なので嫁は無理です」


 目をハートマークにしたリーンがどこまで冗談かわからない求婚をするのだが、アースはいつも通り塩対応をした。


 そしてアースはもう一度奥へと引っ込むと新たになにやら持ってきてテーブルに置く。


「アースこれはなんだ?」


 ケイが質問をする。


 下には丸いガラスの瓶があり中には水が入っている。土台には熱を発する魔導具。

 上には円筒形状のガラスがあり管が下へと繋がっている。


「これは今回新しく作った道具なんですけど、カーシーの味を調整できる道具なんですよ」


「ほぅ? どうやって使うのだ?」


 ベーアが興味深そうに目を光らせると。


「まずこうやって魔導具から熱を発します」


 アースが魔導具を起動すると熱が発し水が熱くなってくる。


「うん? このままだとそこでお湯が出来上がるだけじゃないのか?」


 アースのやっていることの意味がわからないケイはそう口にするが……。


「まぁまぁ。もうちょっと見ていてください」


 ケイの言うように次第に水に熱が伝わり沸騰し始める。ほら見たことかとばかりに呆れた表情を見せると……。


「えっ? お湯が、吸い込まれていく?」


 リーンは驚き目を見張る。


「詳しい原理は説明すると長いので省きますが、こうした道具でこのように熱を発すると液体が上のガラス容器に移動するんですよ」


「なるほど。面白い現象であるな」


「そしてここにカーシーの粉を入れて……」


 アースは用意してあったカーシーを引いた粉を投入する。そして……。


「ヘラでかき混ぜることでカーシーを作ることができます。その時に入れるカーシーの量とかき混ぜる勢い。そして時間によって味が変わってくるんです」


 アースの目には既に最適なタイミングが見えている。これはドリップ式では出来なかった方法なので、この方法を使って入れたカーシーが素晴らしいものになるとアースは確信した。


「ほぉ。何とも豊かな香りであるな。ワシはこれまでこのような匂いを嗅いだことがないぞ」


 鼻を大きく広げてカーシーの匂いを吸い込むベーア。


「カーシーは淹れているときの匂いも楽しみの一つですからね。そろそろ混ぜ具合は良い感じかな?」


 アースはヘラを抜き取るとカーシーの様子を見た。


「でもさ、これずっと水が上に留まったままだよ? このままだと粉が大量に入ったカーシーを飲むことになるんだけど?」


 粉があると喉に詰まるので楽しむことができない。リーンのそんな疑問にアースは……。


「それはこうするんですよ」


 魔導具を停止してみせた。するとガラスの容器は徐々に冷え、上に滞留していた液体が……。


「ふむ、不思議なことだ。液体が先程と逆の動きをして落ちていくぞ」


 しばらくするとカーシーが丸いガラス瓶に戻った。


「まるで魔法みたいだね……」


 目をパチクリさせて驚くリーン。魔法でも同じ現象は起こせるのであながち間違っていない。


「さて、暖めておいたカップに注ぎますね」


 熱いカーシーは熱いうちにとばかりに注ぐ。


「さあ、召し上がれ」


 カーシーの香ばしい匂いとチョコレートケーキが並ぶ。3人はゆっくりとケーキを食べカーシーを飲むと。


「これは……なんとも……」


「幸せぇ……」


「こんなに美味いもの食べさせられたら戻れなくなる」


 世界でも最高峰の【料理マスター】スキルがいかんなく効力を発生したお蔭で3人はアースが作ったお菓子の虜になっていた。


「うん、上出来だね」


 そんな3人をみたアースは自分もケーキに口をつけると大いに満足するのだった。




 デザートを食べ終わり和やかな雰囲気が漂い始める。

 ケイとリーンも先程までの悩みを完全に忘れており、アースは上機嫌で皿を纏めている。


 そんなアースを見ていたベーアは「ふむ」と頷くと。


「そう言えばアース殿。一つ言い忘れていたのだが……」


「はい。なんでしょうか?」


 ベーアが口を開いたことでケイとリーンも怪訝な表情をする。

 何を言い忘れたのかと3人が首を傾げると、ベーアは言った。


「実はワシはゲイなのだ」


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