隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第430話 重いのはおばちゃんの鞄と愛情だけでいい
第430話 重いのはおばちゃんの鞄と愛情だけでいい
出店を一通り回った後、くじ引きの店主から一等の景品である身長180cm以上はあるであろう巨大なテディベアを受け取った2人。
さすがにこまるでは潰されてしまうため、代わりに背負ってあげた
「先に家、置いてくる?」
「それもありかもね」
休憩がてらベンチに腰かけてそんな会話をしていると、遠くからこちらに向かって小走りで近付いてくる2人組の存在に気が付く。
彼女たち……
「何だ、それは」
「こまるの景品だよ」
「置き場所に困りそうだね〜」
「平気。……たぶん」
こまるにとって、勝利を信じる気持ちが呼び寄せた豪運の賜物を廃棄したり、誰かにあげるわけにもいかないのだろう。
何としてでも家に持ち帰るという気持ちのこもった瞳に、2人も心を動かされたらしい。いや、元々優しい彼女達たちだから気遣ってくれただけかもしれないが。
「まだ帰るわけじゃないんだろ? それ、私たちが家まで届けてやるよ」
「そんな、悪いよ」
「ベンチで休まなきゃデートしてられない奴が遠慮なんてするなって」
「そうだよ〜♪ むしろ、ここは素直に甘えておいた方がかっこいいかも〜?」
言われてみれば確かにそうだ。頑なに意地を張って、これから向かう先々で休憩時間を要するよりも、優しさを頼ってスムーズに楽しめる時間を作る方が何倍も楽で楽しいはず。
それが容易に想像出来たからこそ、彼は「お願いします」と言ってテディベアの身柄を2人に預けたのだった。
「でも、瑞希たちは良かったの?」
「私たちは映画を見た帰りだったからな。それにちょうど母さんが車で迎えに来てくれてる」
「テディベア、車に入るかな」
「……少し強引な手段は必要になるかもな」
窓に押し付けられて顔が潰れているベアの姿が頭に浮かぶが、情けない姿を晒さないためと思えばなんてことは無い。
こまる自身もそれでいいと言ってくれたところで、唯斗は軽々と自分の背丈よりも大きなぬいぐるみを背負い上げる瑞希にお礼を伝え、離れていく背中を見送るのだった。
「思いがけず助けられちゃったね」
「瑞希、優しい」
「だね。それにかっこいい」
「唯斗の方が、かっこいい」
「さすがにそれは無いよ」
「ある。好き、だから、かっこよく、見える」
「じゃあ、もしも好きじゃなかったら?」
「……そんなの、ありえない」
フルフルと首を横に振る彼女の目からは、ありえないと言うよりも『考えたくない』という気持ちが伝わってくる。
確かに好きだと伝えてくれるまでのこまるは、唯斗にとって大人しくて目立たないというイメージがどうしてもあった。
そんな彼女がここまで積極的に変わった……いや、変わろうとしている姿を見れば、嫌でも自分の存在がどれほど影響を与えたのかが分かる。
わざわざ言葉にこそしないが、少しでも誰かの世界に新たな配色を追加出来たと思うと嬉しいものだ。
「そうだね。少なくとも僕が出会ったこまるは、僕のことを好いてくれるこまるだけだもんね」
「……ばか」
「うん、自分で言ってても恥ずかしくなるよ」
物理的に体が軽くなった反動か、言動まで若干軽くなった気もする唯斗が後ろ頭をかいていたその頃。
建物の角を曲がった瑞希と風花は、そこで隠れて様子を伺っていたもう一人の前で足を止めた。
「お前、どうして出てこなかったんだよ」
「せっかくおだっちと話せるチャンスだったのに〜」
「だ、だって……マルちゃんとの約束があるし……」
「はぁ。変なところで律儀だよな」
「ほんと、そんなことしてると取られちゃうよ〜?」
「そ、それはダメだけど……」
もう一人、もとい唯斗たちにバレないように咄嗟に身を潜めていた
彼女の『邪魔しない』という契約を厳守する姿勢に、瑞希と風花が褒めていいのか呆れるべきなのかと迷ってしまったことは言うまでもない。
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