第414話 新たなる犠牲者
「夕奈ちゃんはもう帰っ……あら、新しいお客さん? 確か、こまるちゃんだったわよね」
「お邪魔、します」
様子を見に来たハハーンは、ぺこりとお辞儀をしてから靴を綺麗に揃えるこまるに「お行儀がいいのね」と満足げに頷く。
それから、こちらに背中を向けてコソコソとメモ帳に何かを書き込み始めたが、家の中で怪しい行動をするのはやめていただきたい。
……いや、外でも勘弁して欲しいのだが。
「今日から1週間、と1日泊まることになってるから」
「あら、夕奈ちゃんが帰ったと思ったら、新しい女の子を泊めるのね」
「ものすごく人聞きの悪いこと言わないでよ」
「可愛いおなごを取っかえ引っ変え……」
「いくら母さんでも怒るよ?」
「あら、怖い怖い。息子にも殴られたことないのに」
「大半の母親がそうだろうね」
母親に手を上げるなんて、きっと手も付けられないような不良息子か、頭が良すぎて世の中の人間を全員ゴミクズとしか思っていないヤバいやつくらいだろう。
もちろん唯斗はそのどちらにも含まれていないし、もっと言えばイラッとした時の対処法が布団に入ることなので、暴力とは正反対に住んでいると言っても過言では無いのだ。
不良たちが核を兵器に詰めているとしたら、彼は発電所に利用しているレベルの差なのである。
まあ、爆発すれば大変なことになるのは、どちらも変わらないのだけれど。
「とにかく、偶然連続してるだけだから」
「そういうことにしておいてあげるわ。ところでこまるちゃん、聞いてもいいかしら」
「……?」
「料理は出来るのかしら」
その言葉を口にした瞬間、ハハーンの目の奥にある何かが変わったのを感じた。
そう、これは母親だけが持つユニークスキル『ジャッジ』。娘もしくは息子が家に連れてきた異性の友人に質問を投げかけ、そこから結婚相手にふさわしいかどうかを判断する特殊能力である。
以前にも
目のギラギラ感が数値に換算して数倍……いや、数百倍まで膨れ上がっていた。
「さあ、どうなのかしら」
「料理、出来ない」
「あらあら、夕奈ちゃんはある程度出来たのにねぇ。お友達でも人によって……ん?」
そこまで言いかけて、ハハーンは言葉を止める。だって、こまるの体がプルプルと震えているのに気がついたから。
いくら夕奈推しだからといって、彼女を下げるようなことを言うべきではなかったのだ。
そう反省して謝ろうとした瞬間、こまるはハハーンの横を通り抜けてキッチンへと向かう。
そして追いかけた2人の方を振り返ると、まな板が置いてあるところを右手で叩きながら言った。
「背が低くて、台がないと、出来ない」
「……じゃあ、台があれば出来るのね?」
「出来る、夕奈よりも」
「よし、合格よ」
「やった」
そう言えば、確かにこまるの家には高さ50cmくらいの台が二つ置かれていた気がする。
唯斗はその光景を思い出しつつ、よく分からない基準で下された合格に喜ぶこまると、どこか安堵した様子のハハーンを眺めるのであった。
「まともな
「唯斗、何か言ったかしら?」
「なんでもございません」
「うむ、よろしい。それじゃあ、こまるちゃんは夕飯の支度を手伝ってもらえる?」
「らじゃ」
ピシッと敬礼をしてから、ハハーンに抱えられて料理前の手洗いをするこまる。
夕奈と同じでいいように使われているだけのような気もするが、本人に文句が無いのなら気にする必要も無いだろう。
「……まともな親じゃないから、まともな姑になるはずもないか」
その後、唯斗のお小遣いが密かに減額されてしまったことはまた別のお話。
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