第378話 テスト終わりには個性が出る

 学校におけるテスト週間というものには、受ける者の性格が出るものである。

 日に日にやる気に満ち溢れていく者もいれば、毎日つまらなさそうにテストを受けては帰っていく者もいる。

 はたまた、淡々と何の反応も示さない者がいる一方で、見る度に生気が吸い取られているのではないかと思わせられる者もいるのだ。

 そして、そういうものに限ってテストが終わった瞬間、やけに高いテンションで長期休みの夢を見るのである。


「ああ、夏の太陽が眩しく感じるZE☆」

夕奈ゆうな、今は冬だよ」

「…………夏が私を呼んでる」

「タイムトラベラーかな?」


 要するに、今目の前にいるのはテストが出来なかったと言う現実から逃げ、心だけを過去の時空に送り込んだ抜け殻だ。

 試しにツンツンと頬や脇腹をつついてみても、中には魂が入っていないので反応しない。

 今ならもしかするのではないかと太ももに手を伸ばそうとするが、それは瑞希みずきに優しく止められた。犯罪になるぞ、と。


「ねえ、唯斗ゆいと君」

「どうしたの」

「来週、お姉ちゃん居ないんだよね」

「サークル旅行だっけ。前に聞いた気がする」

「……来週、ずっと補習なんだけど」

「また山篭り?」

「今回は学校で受けるみたい」


 夕奈によると、夏の補習では帰ってきた娘息子が5キロ痩せていたなどのクレームがあったため、冬はいつも通り学校&日帰りで行うらしい。

 要するに補習であろうと夕奈が毎日帰ってくるわけで、ちょうどその期間に陽葵ひまりさんの不在が重なったと。

 ひとりぼっちの家に勉強尽くしで帰るのは精神が耐えれそうにないから、1週間こちらの家に泊まらせて欲しい。彼女はそう言ったのだ。


「いいよ」

「だよね、ダメに決まって……あれ、今なんて?」

「いいって言ったの」

「な、なんで?! いつもは断るのに!」

「陽葵さんに前もって頼まれてたからだよ。この前のプールはそのための前借りってこと」

「ああ、そういうことだったのか……」

「だから遠慮せずに来ていいよ。ちゃんと物置は開けておくから」

「いや、せめて家に入れて?!」

「物置は雨風も防げるし、温かくしとくよ? あと鍵も掛けれるから、家と言っても過言ではないね」

「鍵は鍵でも外からかけるやつじゃん!」

「一ヶ月後に生きてたら賞金1000万円」

「デスゲーム?!」


 そんな冗談はさておき、背中をべしべし叩いてくる夕奈を家の中で生活させることにもはや抵抗は無い。

 彼女が2度目に小田原おだわら家を訪問した際に『第2の我が家だ』なんてことを言っていたが、その通りになりかけているほどだ。

 問題があるとすれば寝る場所になるが、選択肢として考えられるのは天音の部屋か唯斗の部屋になるわけで。


「一応聞いておくけど、どこで寝るつもり?」

「唯斗君のベッドの下」

「怪談じゃん」

「仕方ない、唯斗隣で寝てあげるよ」

「さすがに壁の中は苦しいでしょ」

「……反対側の隣だかんね?」

「あ、そっちか」

「普通そっち以外にないんだけど」


 彼は「確かに壁の中の方が怪談っぽいね」なんて言いつつ、RINEでハハーンに『来週、夕奈を泊めてもいい?』と送信した。

 返事はしばらく後になるだろうと画面を閉じようとすると、まさかの3秒で通知が飛んでくる。

 その内容が『来週は外泊するわね』という一言と、『やっちゃえ、兄さん』というよく分からないスタンプだったので、『家に居てください、お母様』と丁寧に返事しておいた。


「母さんもいいと思ってくれてるみたいだし、マッサージでもしてくれたら同じ部屋で寝かせてあげてもいいよ」

「補習なのにまだ労働させるとは……鬼か!」

「別に僕はいいんだよ、夕奈がひとりぼっちの家に帰ることになっても」

「……は、働かさせて頂きます」


 深々とお辞儀をした夕奈がその後、『どんなパジャマなら唯斗君が喜ぶのか』という話をし始めたので、何も考えずにサラシにふんどしと答えたのだが―――――――――――。


「わかった! 準備しておくね!」


 あのキラキラとした笑顔から本気なのか冗談なのかを読み取れず、とんでもないことをしてしまったのではと後悔したことは言うまでもない。

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