第278話 妹は意外と兄を心配している
食事を終えて自室に帰ると、先生と
みんなが部屋に戻って人目が無くなった頃に帰ると言っていたので、きっともう少し遅くなるのだろう。
「そうだ、
プルルルと言うコールが2つ目で出た辺り、丁度スマホを手に持っていたのだろう。何かの邪魔になってなければいいけど。
「もしもし」
『どちら様ですか?』
「お兄様です」
『えへへ、元気そうだね』
「ぼちぼちかな」
声を聞く限りはご機嫌な様子で、こちらからは何か心配する必要がありそうには感じられない。
こうして話しているだけでほっとする、少しおバカそうな可愛らしいいつも通りの声だ。
「頼まれてたぬいぐるみ、買っといたよ」
『ありがとう! 楽しみに待ってるね』
「帰る頃にはスーツケースの中でぺちゃんこかもしれないけど」
『お兄ちゃんの服を捨ててでも死守して』
「僕の服はぬいぐるみ以下なの?」
あまりの扱いに彼が少し落ち込んでいると、天音は『冗談だよ』と電話の向こうでケラケラと笑う。
『あのね、お兄ちゃん』
「どうしたの」
『電話かけてくれてありがとう』
「……変なものでも食べた?」
『天音だって感謝くらいできるもん!』
「ごめんごめん、からかっただけだよ」
怒っているというアピールなのか、やけに鼻息がうるさい妹を宥めて話を続けるように促すと、彼女は言葉を絞り出すようにゆっくりと言ってくれる。
『天音も掛けようとしてたの。でも、いつなら掛けていいのか分からなかったから、20分くらい電話の前で悩んでた』
「いつでも掛けてくれていいのに」
『師匠たちと楽しんでたら、妹はお邪魔かなって』
「この時間は部屋にいるから。
『……そっか、なら良かった』
天音は『悩んでたの、おかしいね』とくすくす笑うが、しばらくするとその声は少し渇いたものになり、やがてボソッと零すような呟きに変わった。
『……寂しい』
「ん?」
『師匠が来るまではさ、実はお兄ちゃんってダメダメなお兄ちゃんだと思ってたの。でも、ダメダメでも離れちゃうと寂しい』
「別に一生会えないわけじゃないのに」
『天音、自分で思ってたよりお兄ちゃんのこと好きみたい。声を聞けてすごく安心してるもん』
「……天音」
『えへへ♪ 師匠とは仲良くね。土産話も楽しみに待ってるから、最高の修学旅行にしてきて』
「もちろん。天音は友達と喧嘩しないようにね、何かあったらいつでも電話に出るから」
『ありがとう、大好きだよ』
「僕も大好き。おやすみ」
『うん、おやすみなさい』
ツーツーという音を4回ほど聞いてから、スマホを耳から離して画面を切る。
このベッドの硬さや部屋の内装にまだ慣れれていない唯斗は、天音の声を聞いたことでかなりホームシックが収まった気がしていた。
「夕奈と仲良く、か。努力はしてみようかな」
どのレベルが仲良くしていることになるのか、正直唯斗には分からない。
相手が笑っていてくれれるなんて基準なら、仲良くしていなくても夕奈はいつもヘラヘラしているし。
「……うん、ヘラヘラしてる顔しか思い浮かばない」
とりあえず、変に面倒事に巻き込まれず、こちらからも彼女に迷惑をかけなければいいということにしておこうかな。
彼は心の中でそう呟くと、ふと思いついてRINEをもう一度起動してとある人物とのトークを開いた。
「…………あ、もしもし」
『ゆーくん、こんばんは』
「こんばんは。今って時間あるかな」
『後は寝るだけなので、たっぷりありますよ』
「それなら良かった。聞きたいことがあるんだ」
そう、電話の相手はハルちゃんである。
唯斗は彼女にもお土産を買おうと思っていたのだが、どのようなものがいいのか聞き忘れていたことを思い出したのだ。
「お土産って、形に残るものがいいかな。それとも残らないものがいい?」
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