第268話 レストランは大人数で入ると座席の配置に困る

 あれから一行はサメの顎の標本を眺めた後、サメ博士の部屋を出てカフェレストラン『オーシャンブルー』へと足を運んだ。


「ちょっとお昼を過ぎちゃったね」

「おかげで空いてるみたいだぞ」

「これも瑞希みずきの計算の内?」

「ああ、そうかもな」


 瑞希は唯斗ゆいとに白い歯を見せて笑うと、「店員さんに話をしてくる」とほかのみんなを待たせて先に中へと入っていく。

 1分ほど話し込んでから彼女が戻ってくると、後ろを着いてきた店員さんは「では、先に3名をご案内します」とお辞儀をした。


「僕たちは6人だけど」

「実はこの店、大きな水槽の近くの席は予約制なんだ。それを取っておいたんだよ」

「ずっと一緒にいたのにいつ予約したの?」

「電話で友達に頼んだんだ。小田原おだわらの名前で12時半に入れておいてくれってな」

「あ、もしかしてトイレが長かったのって……」

「お前は察しが良くて助かる」

「なるほどね」


 話を聞いたところ、指定の時間に予約は取れたものの、ひとつのテーブルに座れるのは4人まで。

 4人と2人に分けるのはアンバランスなため、3人ずつにして片方は予約無しで座れる自由席にしようとのことらしい。


「それなら僕は自由席でいいかな」

「なら夕奈ゆうなちゃんも!」

「私も」

「夕奈は水槽の近くで楽しみなよ」

「どして私だけ仲間外れにするのさ!」

「違うよ、気遣ってるだけ」

「夕奈ちゃんは唯斗君と一緒がいいんですぅー!」

「ごめんね、一緒に座れなくて」

「断る前提なのやめて?!」


 唯斗が強引に引っ付いてくる夕奈を押し返していると、こまるがサッと間に割り込んで抱きついてくる。

 これ以上好きにはさせないという意思表示なのだろうか。それを見た瑞希はクスクスと笑うと、「3人で固まったみたいだな」と親指を立てた。


「小田原の名前で予約してるんだ、お前が予約席じゃなきゃ変だろ?」

「それはそうだけど、せめて夕奈だけは連れてって」

「悪いな。空いてる自由席が3席しかないらしい」

「夕奈なんて空気椅子でいいよ」

「ちょ、私の扱い酷くないかな?」

「電気椅子の方が良かった?」

「もっとイヤなんだけど!」

「なら文句言わずに空気椅子しなよ」

「いいもん、唯斗君の膝の上に座るし」

「それは何をされてもいいって意味?」


 その問い返しに夕奈はポッと顔を赤くすると、「まだ心の準備が……」とモジモジしたが、彼がカンチョーの構えをしているのを見て青ざめると。


「普通のイスでいいので座らせてください……」


 そう言いながら懇願するように頭を下げたので、鬼ではない唯斗は『迷惑をかけない』という約束のもと、仕方なく同席を許してあげることにした。


「あの、お客様。自由席なら4席でも空いているのですが……」

「悪いな、店員さん。少し聞こえにくかった」

「ですから、4隻でも――――――――」

「3席だけ。そう言ったよな?」

「っ……は、はい!」


 にっこりと微笑みながらも、何かの圧を感じる瑞希の瞳に体を硬直させ、カクカクと油の切れたロボットのようにぎこちなく頷く店員さん。

 彼女は「では、ご案内します」と作り笑顔を見せると、先に唯斗たちを水槽の傍の席まで連れていってくれた。


「こちらのお席でございます」

「この水槽って、さっき眺めてたのと同じかな?」

「あちらのベンチのある方から見ていらっしゃったのであれば、見る方向が違っているだけですよ」

「へぇ、すごいところにあるレストランなんだね」

「それな」


 店員さんがメニューを置いて瑞希たちの方へと戻って行くと、夕奈が「いいデートスポットだね」とチラチラこちらを見てくる。

 その視線にどんな意味が込められているのかは分からないが、とりあえず「将来の彼氏と一緒に来れたらいいね」と言ったら何故か照れてしまった。


「それはもう来てるって言うか……えへへぇ♪」

「こまる、夕奈が気持ち悪いんだけど」

「いつも」

「確かにね」

「だから私の扱いが酷いと思うんだけど!」

「それも、いつも」

「そっかぁ……って納得するかい!」


 それからしばらくの間、彼女がグチグチと文句を言ったりイスを寄せて来たりするので、一発メニューで叩いて黙らせておく。

 周りのお客さんからは変な目で見られちゃったけど、食事の時にも騒がれたらやってられないからね。


「早く注文決めようよ」

「それな」

「夕奈ちゃんこれにするー!」

「僕はこれかな」

「私も、同じの」

「それなら夕奈ちゃんも――――――――」

「自分を持ってる人ってかっこいいよね」

「やっぱり変えない! ふふん、かっちょいい♪」

「……ふっ、ほんと単純」

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