第265話 映画館の暗さは眠気を誘う
「待たせて悪かったな」
「ううん。それより
「ああ、ちょっと腹痛があっただけだ」
「我慢しないで言ってね。瑞希が倒れたら夕奈が暴走するから」
「おう、任せとけ」
一番遅くに帰ってきた瑞希を加え、一行はちょうど目の前にあったシアタールームに目を向ける。
どうやらここでは、全三種類ほどある海の生き物についてのムービーが見られるらしい。
上演プログラムを見たところ、お昼前の今の時間は黒潮に乗ってやってくる魚たちという内容だ。
「せっかくだから見ていくか」
「もうすぐ始まるみたいだからね〜」
「それな」
「席が空いてるといいですね!」
ぞろぞろと入っていく4人について、
映像はまさに始まる直前という感じで、彼らが入ってきたことを確認した係の人が、そそくさと空いている所へ案内してくれた。しかし。
「ちょうど6席空いててよかったね」
「まあ、うん」
「どしたの、唯斗君」
「いや、見覚えがある配置だなって」
前の列に3席、後ろの列に3席という具合にしか空いていなかったため、強制的に入ってきた順で別れさせられてしまったのである。
それによって決まった席順が、偶然にも前に同じメンバーで映画に行った時と同じ配置。つまり、唯斗の隣が夕奈と
「……ずるい」
「こまる、落ち着け。席順ばかりは仕方ないだろ?」
「……」
「また後で隣に座れるチャンスを作ってやるさ」
「ほんと?」
「ああ、任せとけ。プランは練ってきた」
「プラン?」
「それは後でのお楽しみだな」
すぐ後ろで瑞希とこまるがこそこそ話する声が聞こえてくるが、一応聞こえていないふりをしておく。
サプライズだと言うのなら、少しは驚く準備をしておこうかな。多分、あまり顔には出ないだろうけど。
『これより、上映を開始致します』
係の人のアナウンスと共に室内の照明が落ち、目の前のロールスクリーンにプロジェクターの光が照らし出された。
それからは黒潮と魚の紹介や、それらの魚が人間とどのように関わっているのかという話を聞くこととなったのだが―――――――――。
「すぅ……すぅ……」
「……夕奈、起きなよ」
「んん、あと5分だけぇ……」
「男子中学生か。寄りかかってこないでよ」
右からは夕奈が肩に頭を乗せてくるせいで、集中しようにも寝ようにも身が入らない。彼女の髪が首にあたって鬱陶しいのだ。
「……ジュル」
「花音?」
「っ……こ、これは違うんです! 美味しそうなんて思ってないです!」
「そっちは別にいいんだけど。ヨダレ垂れちゃってるからこれ使って」
「す、すみません……洗ってお返ししますね」
「いや、ティッシュを洗われても困るよ」
「……へ?」
暗いからよく見えていなかったのか、ティッシュをハンカチだと思い込むという勘違いに真っ赤になる花音の口元を拭ってあげる。
こちらも夕奈とは別の意味で集中させてくれない。まあ、理由はどうであれ魚を見ているだけマシではあるけれど。
「……まったく、こっちもか」
もしかしてと思って反対側を見てみれば、やはり夕奈もヨダレを垂らしていた。
唯斗は眠りのスペシャリストとして、もう少しまともな寝方は出来ないのかと頭を抱えたくなるが、寝ている間のことを制御するのは難しい。
面倒ではあるが、他の人も座るシートを汚すわけにはいかないので、こちらも新しいティッシュを取り出して拭いてあげた。
「すぅ……すぅ……」
「随分と気持ちよさそうに寝てるね」
「うへへ♪ 唯斗君ったら、バターをつけたからってバタ足は上手くならないよぉ……」
「夢の中の僕、馬鹿すぎるでしょ」
寝言であるとわかっていても、夕奈にバタ足を教えられている自分を想像するとすごく情けない。
誰も悪い訳では無いが無性にイラッとしたので、憂さ晴らしとしてティッシュを丸めて夕奈の手に握らせておいた。
「我ながら器が小さいね」
「んん、誰の胸が小さいやねん……ムニャムニャ」
「そんなこと一言も言ってないよ」
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