第221話 悪いところも受け入れればその人の個性
王様になった
「ねえ、番号教えて」
「090……」
「電話番号のことじゃなくて割り箸の番号だよ」
「それはダメやし!」
「でも、ルール説明に聞いちゃダメなんてなかった」
「ぐぬぬ……」
そう、聞くのは別に構わないのだ。教える側が言わなければいいだけなのだから。
しかし、こういう時にどうすれば聞き出せるのかを唯斗は知っている。
「教えてくれたら、いいものあげるよ」
「……いいとも?」
「タモさんはあげれない」
「代わりに唯斗君を貰う」
「夕奈、奴隷はこの国じゃ禁止だよ」
「別に奴隷やないし!」
彼が「じゃあ、何にするの?」と聞くと、夕奈はツンツンと両手の人差し指を突き合わせながら「か、彼氏……?」と呟く。
「そんなに飢えてるの?」
「いや、引かないで?! そういう意味ちゃうし!」
「わかった。番号教えてくれたら、イケメンとのお見合いの場を用意するよ」
「だから違うって言っとるやろがい!」
もちろん唯斗の友達にイケメンはいない、というかそもそも男の友達がいないので嘘ではあるが、夕奈は人気らしいからなんとかなるだろうという算段だ。
しかし、本人が嫌がっているならこの手は使えないだろう。イケメンとのお見合いを断るなんて、人生損しちゃったね。
「仕方ない、自力で当てるよ」
「ふっ、6分の1を当てられるかな!」
そう言いながら割り箸を握った手をグッと突き出してくる彼女。その先端をじっと見つめてみると、不思議なことに数字が見えた。
透視能力に目覚めた訳では無い。夕奈が上下反対に持っているせいで、数字がこちらを向いているのである。
「じゃあ、3番にしようかな」
「……なぜ分かった?」
「視えるんです」
「なっ?! 唯斗君、今までもそうやって夕奈ちゃんの服を透視してたんやろ!」
「そんな価値のないものに使う能力じゃない」
「か、価値が……無いやて……?」
いい加減夕奈が本気で信じ込み始めたので、からかうのはこの辺りでやめにしておいた。
これ以上言い続けると、「
「夕奈、全部嘘。数字隠せてないよ」
「ん? …………あっ」
「じゃあ、もう一人は1番にしようかな」
「1番は私です!」
「3番が1番の悪いところを5つ言って」
「ってことは、私がカノちゃんに?」
「そうなるね」
別にこれは花音が嫌いだから命令しているわけでは無い。とある作戦のためなのだ。
ただ、もしも花音のことを傷つけてしまったのなら全力で謝る覚悟はある。が、唯斗にはそうならない自信があった。
「カノちゃんの悪いところ……?」
「え、遠慮なく言ってください!」
「うーん、そう言われても……」
そう、ひとつならまだしも5つも言えないのである。だって、夕奈や瑞希、
唯斗だって絞り出しても「たまにうるさい」くらいしかない。いつでも人のことを考えて行動する優しい彼女には、悪口なんて似合わないのだ。
「こんなもん言えるかい!」
「じゃあ、夕奈はルール違反でいいね?」
「っ……待って、考えるから」
夕奈はそう言って改めて悩み始めるが、出てくるのは「顔が可愛い……は褒め言葉か」「背が低い……ってのも可愛いし」と使えない案ばかり。
ようやく思いついた「頼りない」という言葉さえ、花音がしゅんとしながら「ごめんなさい……」と謝れば、「うそ! 嘘だかんね?!」と取り消されてしまう。
「……無理、夕奈ちゃん降参」
「なら一枚脱がないとね」
「さてはそれが狙いか!」
「夕奈が全部脱げば、ゲームから除外できるでしょ」
「ついでに下着も見てやろうって魂胆やな!」
「いや、違うけど」
「違うくないと言えー!」
「……いや、違うけど」
よほど悔しかったのか、夕奈は「くそー!」と言いながら机を叩いた後、諦めて一枚脱ぐという自分ルールに従ってくれた。
従ってくれたのはいいことなのだが、その様子を見ていた唯斗には一つ気になったことがある。
「夕奈、帽子とかリボンでも1枚でいいんだよ?」
「いや、そんなのつまんないやん?」
「だからっていきなりローブを脱がなくても」
「その方がドキドキするし」
「……まあ、本人がいいなら止めないけど」
自ら積極的に脱いでいく夕奈に、どこか異質なものを感じてしまう彼であった。
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