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 「こいつを、起こすんですかい?」

先頭のトラックの運転手が、窓から首を出した。大声で尋ねる。


「あっ、人間だ!」


「ずるーうい、なんであの人達は、毛むくじゃらの動物に変身しないのよ」


 圭太が叫ぶと、おねえちゃんが騒ぎ出した。


「あたしのこのみじめな姿を見てよ!」


「あなたたちとは、体のきたえかたが違いますからね」

すまして、白蛇が答えた。



 「ゆっくりねーっ。痛くしないでねーっ」

思わず、圭太は叫んだ。


「がってん!」



 見る間に、大勢の運転手さんたちがトラックを降りてきて、倒れたセイスモサウルスを、ロープでぐるぐるまきにした。女の人もたくさんいて、圭太は、ちょっと安心した。女の人の方が、セイスモサウルスのおじいさんに、そっとロープを巻いてくれそうな気がしたからだ。


 セイスモサウルスをぐるぐる巻きにしたロープが、しっかりとトラックに結び付けられた。100台のトラックは、いっせいにエンジンをふかしはじめた。


 ものすごい排気ガスが、平地を低く覆った。



 「君たちのやり方は、ずいぶん臭くて、うるさいね」


モーモは、邪魔にならないようにちょっと離れた場所へ避難していた。そばに立っていた圭太に囁く。


 圭太は、顔を赤らめた。

 なぜかはわからないけど、自分たちが非難された気がしたのだ。

 トラックの運転手さんたちは、あんなに一生懸命やってくれているのに。



 トラック達は、ゆっくりと動き始めた。

 ゆっくり、ゆっくり、セイスモサウルスが起き上がる。


 セイスモサウルスの体は、かたくつっぱって見えた。

 それでも、曲がりなりにもその体は、立ち上がりかけていた。



「あっ!」

誰かが叫んだ。


 つっぱったままの後ろ脚がぱきんと折れた。再び、セイスモサウルスは、どうっと倒れた。


 もうもうと土けむりが上がった。



「おじいちゃん!」


慌てて、モーモが駆け寄る。圭太も、モーモのしっぽに飛び乗ってついてゆく。



 「駄目だね、こりゃ。脚が使いもんにならない」

窓から首を出して、威勢のいい運転手さんが、さらっと言った。


「でも、仕事はきっちりやったから。約束どおり、お金は、銀行口座に振り込んで下さいよ」


「わかったよ」

むすっとして、白蛇が答えた。

「だけど、もちっと、まからないかね」


「だめだめ、びた一文、まかりません」


「結局、立たせられなかったじゃないか」


「そちらの見立て違いでしょ。初めからできないことを、頼んだんだ。こっちは、やるだけやったんだから。とにかく、期日までにきっちり振り込んで下さいよ」


「わかったよ」

しぶしぶ白蛇が請け合った。



 トラックの大群は、再び、ものすごい排気ガスをたてると、順序よく、スーパーおろち号に乗り込んでいった。


 「ちょっと、送り返してくる」

力なく言って、白蛇も、スーパーおろち号に姿を消した。



 「オレテル。アシノホネ、オレテル」


カイバがふわふわ飛んできて、圭太の耳元で、ささやいた。


「ええーっ、それは大変! 白蛇、ちょっと待って。今度はお医者を呼んできて。外科のお医者だよ」


おねえちゃんが叫んだ。


「駄目ですよ、予算オーバーです」


 スーパーおろち号のデッキの上から、白蛇が、無愛想に答えた。


「ディプロドクスの依頼に関しては、もう、使えるお金はありません。あなた方で、なんとかしなさい」



 スーパーおろち号は、ゆっくりと重そうに、バックで空へ上っていく。

 ふっと消えた。




 「おじいちゃん、大丈夫?」

泣きそうな声で、モーモがささやく。


「脚の骨が折れてるんだって。その体重を支えるのは、かなり難しいわね」

考え深そうに、おねえちゃんが言う。


「その難しいことをやるのが、君たちの仕事だろう! 失敗すると、どうなるか、忘れたなんて言わせないよ」


モーモが詰め寄ってきた。今までの気弱な優しさが嘘のようなものすごい見幕だ。


「クワレル、クワレル、シッパイスルト、キョウリュウニ クワレル」

不吉な声で、カイバがささやく。


「だって、君らは、植物食の恐竜じゃないか」


 そんな場合じゃないと思いつつも、つい、圭太は言ってしまう。

 ふん、と、モーモは鼻から蒸気を噴出した。


 「ジュラ紀にだって、肉食恐竜はいっぱいいるんだ。僕が、君らを踏み付けてここに置いておけば、肉食恐竜は、すぐに来る。君は、どいつに食われたい? ケラトサウルスがいい? ご自慢のあごの油を見せてもらえるかもよ。それとも、ディロフォサウルス? やつらは、柔らかい肉がお好みなんだ」


「ひぇーーーーーーっ」

おねえちゃんが悲鳴をあげた。


 ジュラ紀の肉食恐竜の名前を連呼されて、怯えてしまったのだ。

 圭太も、背筋が寒くなった。







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