25
「こいつを、起こすんですかい?」
先頭のトラックの運転手が、窓から首を出した。大声で尋ねる。
「あっ、人間だ!」
「ずるーうい、なんであの人達は、毛むくじゃらの動物に変身しないのよ」
圭太が叫ぶと、おねえちゃんが騒ぎ出した。
「あたしのこのみじめな姿を見てよ!」
「あなたたちとは、体のきたえかたが違いますからね」
すまして、白蛇が答えた。
「ゆっくりねーっ。痛くしないでねーっ」
思わず、圭太は叫んだ。
「がってん!」
見る間に、大勢の運転手さんたちがトラックを降りてきて、倒れたセイスモサウルスを、ロープでぐるぐるまきにした。女の人もたくさんいて、圭太は、ちょっと安心した。女の人の方が、セイスモサウルスのおじいさんに、そっとロープを巻いてくれそうな気がしたからだ。
セイスモサウルスをぐるぐる巻きにしたロープが、しっかりとトラックに結び付けられた。100台のトラックは、いっせいにエンジンをふかしはじめた。
ものすごい排気ガスが、平地を低く覆った。
「君たちのやり方は、ずいぶん臭くて、うるさいね」
モーモは、邪魔にならないようにちょっと離れた場所へ避難していた。そばに立っていた圭太に囁く。
圭太は、顔を赤らめた。
なぜかはわからないけど、自分たちが非難された気がしたのだ。
トラックの運転手さんたちは、あんなに一生懸命やってくれているのに。
トラック達は、ゆっくりと動き始めた。
ゆっくり、ゆっくり、セイスモサウルスが起き上がる。
セイスモサウルスの体は、かたくつっぱって見えた。
それでも、曲がりなりにもその体は、立ち上がりかけていた。
「あっ!」
誰かが叫んだ。
つっぱったままの後ろ脚がぱきんと折れた。再び、セイスモサウルスは、どうっと倒れた。
もうもうと土けむりが上がった。
「おじいちゃん!」
慌てて、モーモが駆け寄る。圭太も、モーモのしっぽに飛び乗ってついてゆく。
「駄目だね、こりゃ。脚が使いもんにならない」
窓から首を出して、威勢のいい運転手さんが、さらっと言った。
「でも、仕事はきっちりやったから。約束どおり、お金は、銀行口座に振り込んで下さいよ」
「わかったよ」
むすっとして、白蛇が答えた。
「だけど、もちっと、まからないかね」
「だめだめ、びた一文、まかりません」
「結局、立たせられなかったじゃないか」
「そちらの見立て違いでしょ。初めからできないことを、頼んだんだ。こっちは、やるだけやったんだから。とにかく、期日までにきっちり振り込んで下さいよ」
「わかったよ」
しぶしぶ白蛇が請け合った。
トラックの大群は、再び、ものすごい排気ガスをたてると、順序よく、スーパーおろち号に乗り込んでいった。
「ちょっと、送り返してくる」
力なく言って、白蛇も、スーパーおろち号に姿を消した。
「オレテル。アシノホネ、オレテル」
カイバがふわふわ飛んできて、圭太の耳元で、ささやいた。
「ええーっ、それは大変! 白蛇、ちょっと待って。今度はお医者を呼んできて。外科のお医者だよ」
おねえちゃんが叫んだ。
「駄目ですよ、予算オーバーです」
スーパーおろち号のデッキの上から、白蛇が、無愛想に答えた。
「ディプロドクスの依頼に関しては、もう、使えるお金はありません。あなた方で、なんとかしなさい」
スーパーおろち号は、ゆっくりと重そうに、バックで空へ上っていく。
ふっと消えた。
「おじいちゃん、大丈夫?」
泣きそうな声で、モーモがささやく。
「脚の骨が折れてるんだって。その体重を支えるのは、かなり難しいわね」
考え深そうに、おねえちゃんが言う。
「その難しいことをやるのが、君たちの仕事だろう! 失敗すると、どうなるか、忘れたなんて言わせないよ」
モーモが詰め寄ってきた。今までの気弱な優しさが嘘のようなものすごい見幕だ。
「クワレル、クワレル、シッパイスルト、キョウリュウニ クワレル」
不吉な声で、カイバがささやく。
「だって、君らは、植物食の恐竜じゃないか」
そんな場合じゃないと思いつつも、つい、圭太は言ってしまう。
ふん、と、モーモは鼻から蒸気を噴出した。
「ジュラ紀にだって、肉食恐竜はいっぱいいるんだ。僕が、君らを踏み付けてここに置いておけば、肉食恐竜は、すぐに来る。君は、どいつに食われたい? ケラトサウルスがいい? ご自慢のあごの油を見せてもらえるかもよ。それとも、ディロフォサウルス? やつらは、柔らかい肉がお好みなんだ」
「ひぇーーーーーーっ」
おねえちゃんが悲鳴をあげた。
ジュラ紀の肉食恐竜の名前を連呼されて、怯えてしまったのだ。
圭太も、背筋が寒くなった。
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