03 待望のババア

 本稿は、「自分が心の底から面白いと信じるものを書いて、それを面白いと思う人に読んでもらって、そこにちゃんと利益がでる。そういう仕組みを作ろう」という試みである。

※定期的に書いておかないと忘れそうなので。


 以上の条件を満たすツールとして、本来は小説投稿サイトカクヨムとかがあったのだ、と思う。


 なんせカクヨムの謳い文句がこうだ。(以下ガイドより引用)

“誰でも思いのまま小説が書けます”

“いつでも好きな時間・場所で小説が読めます”

“あらゆる作品を大歓迎”

“たくさんの公開作品からいろいろな探し方で小説に出会える”


 そしてカクヨムロイヤルティプログラムがある。

“Web小説を書くことで出版を経ることなく直接収益を得られる環境を提供し、カクヨムで創作活動をする人を応援する仕組みです”


 ……おかしい。どの謳い文句もJAROのお世話になる必要もない事実なのに。

 その結果は「自分が心の底から面白いと信じるものを書いて、それを面白いと思う人に読んでもらって、そこにちゃんと利益がでる」となんか違う。


 なぜなのか。

 簡単なことだ。

 膨大な作品が無秩序に置かれているだけだから、だ。


 たくさんの小説が投稿されていることは、多種多様な作品を揃えるという意味でいいことだ。

 作品としての質・形態にばらつきがあることも、それ自体はいい。いいのだが、全部が一緒くたになっていること、これが問題だ。


 いくら検索機能をつけたって、この中から好みの作品を見つけ出すのは宝くじに当たるようなものである。


 過去作も新作も無駄なく提供するためには、小説のデータベース化が必須だ。

 現状、作品の分類(ジャンル・文字数・完未完・タグ)は作者に委ねられている。が、そんなものでは全然足りていない。

 そもそも、意味のある分類をするには、作品に対する客観的な比較検討が必要になる。それを(学問としての)文学素人な作者の主観に任せて、うまくいくわけがない。文学なめるな。

 ジャンル分けに迷い、カテゴリエラーを起こし、タグは単なる検索最適化SEOツールになってしまっても仕方がない。


 読者の側も、必ずしも自分の“読みたい小説”を具体的に思い描いて探しに来るわけではない。

 7割は「なんか面白いもんないかな~」ぐらいの気軽な感覚である。

(キーワード検索なんて、探してる対象が明確でなければ使いようがないのに、なんでカクヨムはまずキーワード検索をさせようとするのだろう。使い勝手を試したことがないのか)


 このような状況で面白い小説を探そうと思ったら、過去に自分が面白いと思った体験にでも頼るしかない。要は、この間面白かった小説を具体的なイメージに置き換えて次の小説を探す。

 特にまだ読書経験値の少ない人間がこれを繰り返せばどんなことになるか。未知の読書分野の開拓などしないだろう。面倒だから。

 この辺りにも、web小説の強烈な流行りの原因が隠されているに違いない。


 小説投稿サイトは、一応ただ作品を並べるだけでなく、読者の評価などによる選別機能をつけている。

 みんなが読んで好評だった作品はピックアップされ、そうすることで自然と良作が浮かび上がってくる……という目論見だった。

 全小説投稿サイトを引っくるめるのは失礼だからカクヨムに限った話にするけれど、ぶっちゃけ失敗している。


 もちろん、そうして付けられたランキングでは面白い小説をある程度見つけることができる。が、漏れて埋もれる良作はたくさんあるし、ランキングに並ぶ作品全てが“良作”なわけでもない。実に残念ながら。


 なぜか。

 評価される機会が不均等で、評価する基準が一定でないからだ。正直、こんな評価は大した目安にならない。

 もはやカクヨムで送られる星には「僕は面白かったよありがとう」ぐらいの意味しかない。


 その累計数(+α)でランキング。言葉を失う。

 そのランキングが小説への大きな導線。これでうまくいったら、ノーベル平和賞ものだろう。


 せめて全作品に最低限の評価機会を与えるか、もう少し明確な基準による評価へ切り替えるかしなければならないが、ボランティア読者による運営でそれは無理だ。


 そのうえ、このシステムは、まずなんとしても読んでもらわなければ評価が得られず、評価が得られなければ読んでもらえない、という悪循環を生む。

 当然、作者は悪夢から逃れるために足掻く。

 なんとか自作が読者の“目を引くための努力”が過熱する。

 これは、もはや“読まれるための努力”とは違う。

 とにかく少しでも気を引く、目立つ、突飛なの小説になっていく。その突飛さ加減をどんどん上げていく、しかなくなるのである。

 そういう小説が駄目なんじゃない。

 そういう小説だけになっちゃうのが、駄目だ。


 さらに読んでもらうための“読み合い”や“相互評価”が加速する。

 これ自体も悪ではない。が、行きすぎれば、評価の機会と基準がさらに理想から遠く離れて偏っていくという、もう一段階でかい悪夢の輪が発生する。

 小さい無数の歯車が噛み合って大きな歯車を回し、そうして生産される悪夢が――いやもう、この話はやめよう。誰も幸せにならない(笑)



 無秩序にボランティア作品を置き、ボランティア読者に解放したところで夢の世界は勝手には生まれない。


 ちゃんとした区画整理と標識のある道が必要だ。

 それがなければ、作品と読者はお互い迷子のまま彷徨うしかない。


 正しい作品の情報。その情報の提供。求める読者とのマッチング。この3つがあれば、格段に住みやすくなる。

 それを備えた革新的な方法はないんだろうか。…………って、あれ? これ、本当に革新的?

 だって。これ。出会い系マッチングアプリがやってることじゃん。


「出会い系マッチングアプリ!」


 というわけで、唐突に閃き、居酒屋で叫んだ。

 が、隣からは「はあ?」という怪訝な声が返ってきた。


「うちの若いのが『ぜんぜんいいのに巡り会えない』って嘆いてたが?」


 別に出会い系マッチングアプリの話をしたいんじゃない。


「違う。マッチングシステム。

 登録料を払って、作家が自分の作品を登録する。まず、ここはきっちり有料。タダで作品登録はさせない。このお金で編集(マッチングアプリ)が仕事する。

 そのとき、結婚相談所の中の人みたいのと面談?して、作品のアピールポイントとか、こんな人に読まれたいだとか、そういうメタデータを話し合って決める。ここ、編集の仕事。

 面白いモノを読みたい読者が来て、自分の希望を入れたり、好みを入力したり、ただブラブラ見て回ってもいいけど、マッチングをする。ここは無料。

 で、読者は気になった作品があったら、購入。ここは有料。読むのは当然お金がかかる。そのお金は作家に入る。

 っていうシステムでいいんじゃないか、実は。

 あとお宅の若いのには『いい女はマッチングアプリとかにいない』って言っとけ」


 超早口で返した。

 どうやら奴にはイマイチだったらしい。

 うまくいくか、そんなもん。という顔をしてたと思う。


「まぁしかしアレだ。

『いい女はマッチングアプリにいない』……いや、分かるけど、これが、その『マッチング書籍』でささやかれたら終わるな」


 マッチングアプリという存在自体が胡散臭いようだ。信用がない。


「大丈夫。勝算がある(笑)」


 と言いつつ、全然大丈夫ではない話を口走るたかぱし。

 以下、なかなか下世話な例え話が飛び出す。ごめん。


「っていうか、マッチングアプリや結婚相談所に例えたけど、より正確にいうなら読書は結婚じゃなくて一夜の火遊びだからな。

 デリヘル嬢のマッチングに近い(ひどい)。

 とにかく体を売って生きていくしかない女(作品)と気軽に遊びたい男(読者)の関係だ。男の商売女選びだな(最悪)。

 だからこそ、やっぱり高級娼館の遣り手ばばあみたいな存在が重要だな。

 女の本人すら気づいていないような魅力を見抜き、ときに磨いてやり、安売りにならないよう守ってやって。

 客だって自分の性癖を理解しているとは限らない。顔を見ただけでこいつはもっちりおっぱい好きだなと見抜いていい女をあてがってやり、ときにはまだ見ぬ新しい性癖の扉も開いてやる。

 儲かるぞ、これ。絶対」


「話を聞いているとなるほど、確かにその通りかもしれん」


「小説投稿サイトもオンライン書店も、なんならアマゾンも、プログラムでこの辺カバーしようとしてる(おすすめの表示とか、関連小説の表示、検索機能とかな)けど、ここは人力っつーか、遣り手ばばあがやるべきだ。

 遣り手ばばあ。そこらに落ちてねぇかなぁ」


 落ちてるわけがない。


「結局、人間が人間を扱うのだから、重要な仕事は機械じゃないってのは、俺もすごくそう思う。

 逆に言えば、そういうババアクォリティを全国に統一した規格で用意できないがゆえの機械化なんだと思うから、隙間でうまく軌道に乗せられればいける話かもしれないな」


「大手の企業や出版社は、大ヒットを追い求めればいいと思う。たくさんの人が面白いと思って、たくさんの人が買う作品を作って売ればいい。多数を相手の商売だ。

 だから、あえて個の客、個の作家を相手にする。大衆受けではない、“99人に無視されて1人に刺さる作品”をその1人に刺すことができる、そういう商売。

 ネットや電子書籍やSNSがある今だから、それが商売として成り立つと思う」


 これがババア構想の発端である。

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