第27話死亡フラグ

 鎧を見に纏った僕は珍しく気を出していた。


 破られた扉を一睨みしてから外は繰り出し、よそ見にしていた間抜けな敵兵の頭を剣を持たない左手で砕く。 


 他の敵兵が振り返る前に背中から心臓に剣を突き刺した。


 なんとなく感慨深い。昔はコボルト一匹に右往左往していた僕が……コボルトには今でも勝てないかもしれないな。


 気を取り直して、ウサギと死闘を繰り広げていた僕がここまで滑らかにゴブリンを殺せるようになるとは。


 別に際立った技術はないし、ましてや身体能力が強くなったわけでもない。心が慣れたのだろう。


 愛と平和ラブアンドピースをモットーとする僕でも殺戮に躊躇がなくなって来てしまった。


「僕は平和主義者だったのにな」


「ご冗談でしょう?」


 独り言のつもりだったのだが、部下のは1人が笑いながら聞き返して来た。

 

 ……僕ってそんなに悪人に見えたのかな。僕のやったことなんて精々仲間内で殺し合わせたり、部下を実験台にしたり、餌にしたり……え?振り返ってみると結構鬼畜?


 後にしよう。


「よし、敵味方の判別はつくな?」


 部下たちが一斉に頷く。


 敵は赤い布をつけている。同士討ちを避けるために仕方ないことだが、ありがたい。



「これからどうしますか?」



 部下の質問に僕は即答できなかった。


 いやしょうがないじゃん。だって家を荒らされて怒ってたんだもん。


 ……もんってなんだよもんって。自分で言っていて吐き気がした。


「少し考える。その間私を守れ」


「はっ」


 素直に頷いた部下に満足しつつ、僕は再び家に入った。


 そもそも、敵の襲撃を集落で受けるつもりはなかったのだ。


 昼間は多くのゴブリンが狩りに出ている。僕が攻撃側であれば留守の間に集落を乗っとり、敵を迎え撃つ。


 当たり前だが、攻撃側と、防御側、どちらが有利かと言えば防御側が有利だ。


 鉄とコンクリートで出来た旅順要塞は陸上兵科で攻略するのは困難極まりない。


 無論、今の時代にそんな代物は存在しないが、大抵の場合似たようなものだ。


 もちろん昼間であれば敵に見つかる可能性も高まる訳だが、人間の軍隊であれば話しは別なのだろうが、ゴブリンの警戒網なんてザルなのだ。堂々と昼に攻めた方がいい。


 そう判断して昼は必ず出かけるようにしていたんだけどな。


 反省は後だな。


「どうすればいいと思う?」

 

「こ、このまま家を守ればいいのではないでしょうか?」


「族長と合流しては?」


 驚いたな。まさか意見を返してくるとは。


 何にせよ、選択肢は留まるか、集落から逃げるか、集落内で安全な場所に逃げるか、族長と合流するかだ。


 うーん、良し悪しがわからない。


 じゃ、逆に考えよう。どうすれば僕は死ぬ?


 まずはこのまま留まっていて、敵兵に圧殺される。ありそうだ。


 そもそも、敵がどこから攻めて来たのか全くわからない。馬鹿正直に南から攻めてきたならともかく、北から攻めてきたならここは一番危ない場所なのだ。


 

 次に、集落から逃げている内に強敵と遭遇するパターン。これもありそう。


 さっきも考えたが、どこから攻めて来ているのかわからない。となれば最悪敵の本陣に突っ込むかもしれない。


 それでも逃げるとしたら、東か、西、敵は南東から来たはずだから西に、森に逃げるべきか。やってみる価値はあるかもな。


 待てよ、逃げたことがバレたら結構まずいことにならないか?敵前逃亡はいつの世でも死刑だからな。


 そして、集落の安全な場所に逃げる。これはリスクが大きい。


 敵の目的、つまり新たな住居を手に入れること勘案したら可能性は低いが放火されたらまずい。原始的な木造の建物では面白いくらいに火が回るだろう。流石に焼け死ぬのはごめんだ。



 次に族長と合流して、巻き込まれるパターン。


 ありそうだ。さっきみたいな、大魔法を撃ち合っている場所に行ったら余波でも死ねる。


 でも待てよ、族長が勝ったらいい。正直あの生命体が死ぬビジョンが見えないが、もし負けたらこの集落のゴブリンは四散するしかない。


 それで僕は、雑魚ゴブリンは生き残ることができるのか?

 

 無理だろう。たった7人で昼夜の区別なく襲ってくる魔獣の相手をすることなんてできない。


 であれば、賭けるべきか、この命を。


 とても、とても危険な考えだ。が、やるしかない。


 僕からすればそれこそ世界に勝るこの命、他者からすれば塵にも劣るだろう。賭け時だ。


 ただ、生き残るために。


 生きたいという単純な望みを誰が否定できるだろうか。

 

 もし、否定する人間がいるのなら、僕のたった一つの小さな望みを踏みにじろうとするなら、僕の生き残りを邪魔する奴は、殺そうとする奴は、殺してやる。全部、全部、殺してやる。



「ギガガガ(死ねぇ)」


「お前が死ね」


 すでに家の中まで入っている敵兵を真っ二つにする。


 仄暗い光を放つ剣を手の中で回した。負ける気がしない。






 種族:ゴブリン呪術師シャーマン

 位階 :部隊長

 状態:通常

 Lv :1/40

 HP  : 176/176

 MP :173/172

 攻撃力:49

 防御力:47

 魔法力:51

 素早さ:47

 魔素量:E


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv4][仲間を呼ぶ][指示:Lv2][瘴気付与Lv1]


 耐性スキル:[毒耐性Lv1]


 通常スキル:[罠作成:Lv2][槍術:Lv1][剣術:Lv2][無属性魔術Lv1][呪術Lv1]


 称号スキル:[邪神の教徒][同族殺し][狡猾][ゴブリンチーフ]


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



お知らせ


 悩んだ挙句、タイトルを変更することを脳内議会が議決しました。


 早ければ23日からタイトルを『転生ゴブリンは邪神の使徒』にします。今後ともよろしくお願いします。


 

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