第9章 9 謁見の間
「う・・・。」
ヴィンサントに抱え上げられたレイフが微かに動いた。
「レイフッ?!」
咄嗟に声を掛けたが、私は兵士に右腕を掴まれ、阻まれてしまった。
「おっと、待ちな。」
≪ この女・・・逃げる気かっ?!すぐにでも陛下の所へ連れて行かなければ! ≫
兵士の思考が流れ込んできた。この兵士たちはこんな状況でも私が逃げようと思っているようだった。強く握りしめて来る腕が痛くてたまらない。
「逃げませんから・・手を離して下さい・・。」
痛みに顔をしかめながら言う。
「アイリス様っ!」
ヴィンサントが私の歪んだ顔を見て呼びかける。駄目・・そんな声を出せば荷台の中にいるオスカーに聞かれて・・・私を心配して出て来てしまうかもしれない。実は今回の城の潜入には別の作戦も含まれていたのだ。オスカーを乗せた荷馬車をこのまま
ヴィンサントが城の厩舎へと進入する。そして人が厩舎からいなくなった隙を見て、オスカーが荷台から降りて、城の内部へと潜入する。その潜入ルートは王族のみが使用する事の出来る秘密のルートで決して見つかることは無いとされている。
だから今の状況で痺れを切らしたオスカーが荷馬車から降りてしまったら計画が水の泡になってしまう。
「さあ、早く・・・私を陛下の所に案内して下さい。」
オスカーが我慢できる内にすぐにこの場を立ち去って貰わなければ・・・私は素早くヴィンサントに目配せすると、彼は頷いてレイフを担ぎ上げると、荷台の中にいれて御者台に座った。
「・・・。」
ヴィンサントは何か言いたげに一瞬私を見たが、すぐに馬車を走らせて去って行った。
「さあ、では我らと一緒に来ていただこうか?」
屈強な顔をした兵士は私の腕をつかんだまま、城へ向かって歩き始めた。
「・・・。」
なすすべも無くついて行く私は背後を振り返った。どうか・・オスカーとまた・・会えますように・・!
私は心の中で強く祈った―。
「国王陛下っ!アイリス・イリヤを連れて参りました!」
私は兵士によって強引に引きずられながら、フリードリッヒ3世がいる謁見の間へ連れて来られた。真正面には一段高くなった床に黄金に光り輝き、至る部分に宝石が埋め込まれた玉座の上に・・。
「国王・・・陛下・・・。」
フリードリッヒ3世が・・・・私を見下ろしていた。その左右には表情の無い王宮騎士が控えている。
「おい!陛下の前だ!ひざまずけ!!」
言われた私はその場に跪くと、いきなり兵士は頭を掴み、無理やり床に擦りつけた。
すると・・・・。
「おいっ!貴様・・・アイリスに何をするのだっ!」
突然フリードリッヒ3世が怒声を揚げ、左右にいる騎士に命じた。
「あの無礼者を殺れっ!」
「「はっ!」」
2人の王宮騎士は返事をすると、こちらに向かって駆けよって来る。
「ヒイイッ!お、お許しをっ!」
・・この兵士は何をそんなに怯えているのだろう?こんなに屈強そうな身体をしているのに・・・今こちらに向かって駆けてくる騎士の方が強いのだろうか?
「た、助けてくれっ!」
兵士は突然踵を返し、駆けだした。
「逃がすかっ!」
突如フリードリッヒ3世は右手を差し出した。するとそこから黒い靄が現れて背を向けて逃げる兵士に向かって襲い掛かって行く。その途端、黒い靄は兵士の身体に巻き付き、勢い余った兵士はそのまま床に転んでしまった。そこへ2人の騎士は物も言わずに腰の剣を引き抜き無言で兵士の身体を左右から突き刺した。
ザクッ!!
肉を切りさく音が響き渡る。
「ギャアアアアッ!!」
激しい断末魔を上げる兵士。
「・・・っ!!」
あまりの光景に思わず目を逸らすと、フリードリッヒ3世の声が壇上から聞こえた。
「お前たち・・すぐにその醜い死体を片付けろ。」
「「はい。」」
2人の王宮騎士は返事をすると、互いに死んだ兵士の左右の手を掴み、ズルズルと床を引きずって去って行った。兵士が倒れていた床は血まみれで、私はただ震えて見守る事しか出来ずにいた―。
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