第9章 7 交換条件

「もう一刻の猶予もならない。すぐにでも王宮に行き、レイフを助け出さなければならない。」


オスカーは全員を見渡すと言う。


「しかし、正面から王宮に向かっても王宮の兵士や騎士たちに見つかり、返り討ちに遭うのは目に見えています。第一、そのレイフと言う人物が捕らえられている場所すらまだ分りません。」


ヘルマンが言う。


「・・・。」


オスカーは難しい顔で沈黙してしまう。でも・・本当にどうすればいいのだろう。今こうしている間にも刻一刻と時は流れ、レイフの死が近づいていく・・・。もう、こうなったら・・・。


その時―


再びバサバサッと伝書鳩が飛んできて窓枠に止った。


「おおっ!伝書鳩がっ!」


シモンは窓に近付くと鳩の足に結ばれているメモをほどき、すぐにオスカーに手渡した。


「どうぞ、オスカー様。」


「ああ・・。」


オスカーはメモを開き・・途端に険しい顔つきになった。


バンッ!


オスカーはメモ紙をテーブルに叩きつけた。


「ふ・・ふざけるなっ!卑怯な手を・・・!」


「オスカー様、どうされたのですか?」


シモンが尋ねる。するとオスカーは顔を上げて私を見た。


「アイリスを・・引き渡せばレイフと交換すると・・父が・・いや、フリードリッヒ3世が言って来た。・・どうやら俺達の伝書鳩を捕まえてメモを巻き付けて飛ばしたようだ・・!」


オスカーは真底悔しそうに言う。でも・・・ある意味この提案は私にとっては好都合だった。


「オスカー様、私を・・・レイフと交換して下さい。」


「アイリスッ?!何を言うんだっ?!」


オスカーはギョッとした顔で私を見た。


「そうですよ、アイリス様!もっと・・・もっと他の手段を考えましょう!」


ヘルマンが言う。


「他の?一体他にどんな方法があると言いうのです?策を練ってる今も・・刻一刻と日没が近づいていくと言うのに?大丈夫です。フリードリッヒ3世は・・絶対に私に手出しは出来ません。現に私がフリードリッヒ3世の前で自分の喉元に短剣を突きつけて命を絶とうとした時に、必死で私を止めたのですよ?」


するとオスカーが私の話に顔を青ざめさせた。


「何だって・・?!お、お前・・・そんな事をしようとしたのかっ?!」


「は、はい・・・。」


項垂れながら俯く。


「そんな・・・そんな話を聞いて・・・お前を1人で行かせられると思うのかっ?!アイリスッ!」


オスカーはまるで血を吐くような勢いで私に訴えてくる。でも・・私の心は決まっている。だって伝書鳩の伝令が来る前から・・・私はレイフと自分を交換してもらうように交渉を考えていたのだから。恐らくフリードリッヒ3世の本当の狙いは私なのだ。所詮彼にとってはレイフの命など、どうでもよい。私を脅迫する為の道具の一つとしてしか考えていないのだ。


「・・お願いです。オスカー様。何故かは分りませんが、フリードリッヒ3世は私に異常な程執着しています。そこには何か重大な秘密が隠されていると思うのです。それに・・私にはある策が有ります。それがどのようなものかはお話する事は出来ませんが・・でもうまくいけばフリードリッヒ3世に取りつく悪魔を引き剥がす事が出来るかもしれません。」


「しかし・・・。」


「オスカー様。」


尚も言いよどむオスカーに声を掛けたのはアルマンゾだった。


「アイリス様の・・言う通りです。ここは・・任せてみませんか?」


「アルマンゾッ!貴様・・っ!」


オスカーはアルマンゾに近付くと襟首を掴んだ。


「アイリスを・・人質に取らせろと言いうのかっ?!アイリスを・・見捨てろと言うのかっ?!ふざけるなっ!」


しかし、アルマンゾはひるまない。


「落ち着いてください、オスカー様。まずはアイリス様を王宮の正門から中へ入って頂きます。多分、その際・・大勢の兵士が迎えると思います。そして恐らくレイフと言う若者の見張りにも多くの見張りが張り付いていると思います。恐らく・・警備は手薄ではないかと。それこそ・・秘密の通路を使い、城の内部へ潜入するチャンスだとは思いませんか?」


少しの間、怒りの眼差しでオスカーはアルマンゾを睨み付けていたが・・溜息をつくと、その手を離した―。





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