第8章 5 望まぬ再会
「こちらのお部屋になります。」
ユリアナが立ち止まったのは真っ白いドアで美しい装飾がなされている扉の前だった。
「こちらの部屋にアンソニー様と・・お付きの男性と女性がおります。」
「お付きの・・・?」
やはり第2王子ともなると、付き人が2名もつくのだろうか。
「アイリス様・・・怪しまれないように食事を並べたら早々にここを立ち去りましょう。そして掃除をする振りをしながら地下牢へ行く道を探しましょう。」
「え、ええ・・・。」
しかし、そんなにうまくいくのだろうか?何とも言いようの無い不安が私の頭をよぎるのだった。
「アイリス様・・・では参りましょう。」
ユリアナが素早く目配せすると言った。
「え、ええ・・・。」
私の身体に緊張が走る。
コンコン
ユリアナが扉をノックした。
「誰?」
愛らしい声が聞こえてきた。
「お食事をお持ちしました。」
「ありがとう、持ってきて。」
「失礼致します。」
ガチャリとドアを開け、ユリアナの後に続き私も中へと入って行く。
そこには豪華なソファに座った栗毛色の巻き毛のとても可愛らしい少年の姿があった。
「そこのテーブルに置いて頂戴。」
その声に私はハッとなった。今の声は・・・聞き覚えがある。ま・まさか・・・。忘れたくても忘れられないあの声は・・・。
恐る恐る顔を上げると、幼い子供の傍に立っていたのはタバサだったのだ。ま、まさか・・・タバサがここにいたなんて・・・。と言う事は、ひょっとすると男性と言うのは・・?そして私は見た。タバサの背後に立つその人物は・・レイフだったのだ。
どうしよう、彼らに私の正体がばれてしまったら・・。もはや冷静ではいられなかった。心臓はドキドキと早鐘を打ち、今にも飛び出してしまいそうだ。
そんな様子の私にユリアナは不安そうに眼を向ける。
いけない、今私がここでヘマをすれば・・・迷惑をかけるどころか、下手をすれば身元がばれて全員ただでは済まないかもしれない。何とか冷静にならなければ・・。
「どうしたの?早くテーブルに食事を出しなさい。」
私とユリアナの動きが一瞬止まってしまった為にタバサが眉をしかめながら言う。
「申し訳ございません。すぐにご用意させて頂きます。」
ユリアナが返事をし、てきぱきと料理をテーブルの上に乗せていく。私もユリアナにならって料理をテーブルの上に置いていき・・・手を滑らせてしまい、カップに入った熱いスープを左手に掛かってしまった。
「あ・・・熱いっ!」
思わず声を上げてしまった。し、しまった!ユリアナも驚いて顔を上げて私を見る。
「あ!大丈夫っ?!」
アンソニー王子が咄嗟に声を上げると、レイフがツカツカと私に近付いて来た。
「!」
咄嗟に顔を見られないように背けると火傷した左手をグイッと掴まれた。
「・・・赤くなっている。すぐに冷やしに行った方がよさそうだ。」
レイフは言うと、アンソニー王子の方を見た。
「このメイドを井戸に連れて行って火傷した手を冷やしてまいります。」
「うん、そうだね。火傷は痛いものね。」
アンソニーの言葉にレイフは頷き、ユリアナに言った。
「俺はこのメイドを井戸に連れて行く。お前も食事を並べたら井戸まで来い。」
「承知致しました。」
ユリアナが頭を下げると、レイフは私の腕を引っ張って行くように連れだして行く。
「・・・。」
レイフは無言で、何故か速足で歩き続け・・やがて中庭にある井戸に辿り着くと掴んでいた手を離し、両手でポンプを押し続けた。
やがて水が出ると私に言う。
「早く手を出して水で冷やせ。」
「・・・。」
私は無言で手を出し、ポンプから溢れ出て来る冷たい水で手を冷やし続けた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます