第7章 9 フリードリッヒ3世、再び

「ふふふ・・・これほどまでにうまくいくとは思わなかったな・・・。」


ユリアナの様子がおかしくなった。


「ユ・・ユリアナ・・どうしたの・・?」


異様な雰囲気を身にまとったユリアナが恐ろしくなった私は後ずさりながら声を掛けた。


すると突然ユリアナはドサリと床に倒れた。


「ユリアナッ?!」


しかし、その直後・・・。


ユリアナの影が突然動き出したのだ。それはまるで意識を持った人形のようにゆらりと立ち上がり・・・徐々に暗い闇が晴れていく・・。その姿を見て私は息を飲んだ。


「こ・・国王陛下・・・。」


そこに立っていたのは国王、フリードリッヒ3世だったのだ。


「アイリス・・・お前を迎えに来た・・・。お前は私の物だ。他の誰にもやらぬ・・。」


フリードリッヒ3世は笑みを浮かべて私を見た。その顔は・・とても恐ろしくて凝視することが出来ないほどに。


「・・・っ!」


私は勇気を振り絞り、今来た道を引き返すべく背を向けて走り出した。しかし・・。


「逃すかっ!」


背後で声が聞こえると同時に一瞬でフリードリッヒ3世は私の眼前に現れ、右腕を掴まれた。


「!」


その途端・・・私の頭の中にフリードリッヒ3世の思考が流れ込んでくる。それはとても恐ろしい光景だった。私はベッドの上でフリードリッヒ3世に組み伏せられ、弄ばれていたのだ。こんな事を頭の中で想像していたなんて・・あまりの衝撃で一気に恐怖に襲われる。


「イヤアアッ!!は、離してっ!!」


国王に汚されるくらいなら・・もう一度死んだほうがましだっ!どうせ一度は死んだこの身体・・・。未練はどこにも無い。


「何をそんなに暴れておる・・・。可愛い奴だ・・。」


暴れる私を簡単に抑え込むと、強引に顎を掴まれて上を向かされる。徐々に顔を近づけてくるフリードリッヒ3世。

いや・・!だ、誰か助けて・・・・!


「アスターッ!!助けてっ!!」


気付けば、アスターの名を叫んでいた。すると、突然右手にはめた指輪がまぶしく光り輝いた。


「ぎゃあああーっ!!」


彼は私の身体を突き飛ばし、顔を覆って絶叫する。


「キャアッ!」


突き飛ばされて危うく床に倒れこみそうなところを背後から誰かに支えらえた。


「アイリスに・・触るなっ!」


その声は・・・アスターだった。


「ア・・アスターッ!無事だったのねっ?!」


恐怖のあまり目に涙を浮かべた私はアスターにしがみついた。


「アイリス・・・良かった。間に合って。」


アスターは笑顔で私を見ている。その時・・・。


「お・・・おのれ・・・一度とならず・・二度までも・・・この私の邪魔を・・・。」


恐ろしい程の恨みのこめられた声に思わず振り向くと、そこには顔面が半分焼け崩れた目をそむけたくなるほどの気味悪い姿のフリードリッヒ3世が立っていた。しかし、その身体は立っているのがやっとの様子で弱り切っており・・・下半身は黒い靄に覆われている。


「キャアッ!!」


私はあまりの恐ろしい姿に思わず目を閉じてアスターにしがみついた。

アスターは私をしっかり抱きしめるとフリードリッヒ3世に叫んだ。

「アイリスに手出しはさせない・・・闇の世界へ還るがいいっ!!」


「ぐ・・・お、おぼえていろ・・・闇が・・この世に影がある限り・・私はいつでも・・アイリス・・お前のもとに来ることが出来ると言う事を・・・忘れるな・・よ・・。」


言いながらもフリードリッヒ3世の身体は徐々に黒い靄に覆われ始め・・・最後は全身を覆いつくしたと同時に、靄はボロボロと崩れ始め・・やがては空中に掻き消えてしまった―。

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