第6章 18 まがまがしい気配
「指名手配だと・・・・?一体あいつは何をやってくれたんだ・・・?」
私を抱きしめたままのオスカーはいら立ち紛れの声で言う。
「・・・。」
私は何と返事をすればよいか分からず黙っていた。それよりも・・上半身裸で包帯を巻かれたオスカーの厚い胸板に顔を押し付けられて、妙に顔が熱くなってきた。私にとっては今の自分が置かれた状態の方が余程困っていた。
「あ、あの・・・オスカー様・・・。離していただけますか・・?さすがにこの格好は・・・。」
身を固くしながら言うと、どこか私をからかうような含み笑いを交えつつ、オスカーが言った。
「クックック・・・どうした?アイリス。ひょっとして照れているのか?可愛い奴だな・・・。お前は。」
その言葉を聞き、ますます私は顔が熱くなった。
「か、からかわないで下さい。オスカー様。」
「別にからかってなどいない。俺は思った事を述べたまでだ。それに・・第一俺とお前は婚約者同士。何の問題も無いはずだ。」
それを聞いた私は肝心な話をオスカーにまだしていなかったことに気が付いた。
すうっと深呼吸すると私は口を開いた。
「オスカー様・・どうしてもお話ししたいことがあるのですが・・。」
「どうした?」
「私とオスカー様の件についてです。」
「何だ?」
怪訝そうにオスカーが返事をする。
「私と・・・オスカー様の婚約が・・・取り消されました・・。」
「な・・何だって・・・?!」
オスカーは私の身体を離すと両肩を握り締めて尋ねた。
「そ、それは・・いつの話だっ?!」
「け、今朝・・・父から聞かされました。オスカー様がウィンザード家から指名手配されると同時に・・・。」
「な・・・何て事だ・・・。」
オスカーは私の身体から離れると、右手で自分の額を押さえて自嘲気味に笑った。
「ハハハ・・・でも当然だな?ウィンザード家から指名手配されたなら・・・・お前との婚約も取り消されても当たり前だ・・・。」
「それだけではありません・・・・。」
「何だ?まだあるのか?お前という婚約者を失ってしまった俺にまだ何かあるっていうのか?」
オスカーは青ざめた顔で私を見つめると言った。
「私は・・・今度はオスカー様の弟君の第2王子アンソニー様と婚約するように申し付けられてしまいました。」
項垂れたまま報告すると、突如オスカーは目を見開いた。
「な、何だって・・?今何と言った・・?」
「はい・・国王陛下からアンソニー様と婚約を・・・キャッ!」
再び腕を強く引かれ、まるでかき抱くように再び強くオスカーに抱きしめられた。
私を抱きしめるオスカーの身体は震えている。
「アイリス・・・今の話は本当なのか・・?」
「はい、本当です・・・。」
「あいつは・・・アンソニーはまだ8歳だぞっ?!だけど・・・お前はどうだ?18歳じゃないかっ!どう考えてもおかしいだろう?馬鹿げた話だとは思わないのかっ?!
第一・・・俺に・・お前を手放せと言うなんて・・・!」
オスカーは大怪我を負っているにも関わらず、ますます抱きしめてる力が強まってくる。
「オ、オスカー様・・・、く・苦しいです・・・もう少し力を弱めてくれませんか・・・?それに傷が開いて・・・しまいます・・。」
「駄目だっ!そう言って・・・手を緩めれば・・・お前は俺から逃げ出すつもりだろう・・っ?!まあ、逃げたくなるには当然だろうが・・・こんな王級から指名手配されてしまった俺など・・・っ!」
その時・・・ゾワリとまがまがしい気配がオスカーの身体から沸き起こってくるのを感じた。
まさか、この気配は・・・『エルトリアの呪い』・・・?!
私は緊張しながらオスカーの様子をうかがった―。
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