第6章 17 入れ替わったオスカー

「お嬢さん・・・。」


誰かが私に声を掛けている。


「お嬢さん・・。」


誰かがそっと肩に手を置いて軽く揺すってきた。


「う・・・・ん・・。キャッ!」


何度か瞬きをして、先ほどの男性が私を覗き込んでいる事に気が付き、思わず軽く悲鳴をあげてしまった。


すると男性は苦笑すると言った。


「ああ・・すみません。驚かせてしまいましたよね?」


「い、いえ・・・私の方こそ居眠りをしてしまったようで申し訳ございません。」


何気なく窓の外に目をやると、いつの間にか夕方になっていたのか、窓の外はオレンジ色に光り輝いていた。


「え・・・もう夕方・・・。」


「ええ、そうです。もうお連れの方は目を覚まされていますよ。痛み止めの薬も処方していますので、会話も出来ますよ。」


「本当ですか?ありがとうございます。本当に何とお礼を申し上げたらよいか・・・。」


深々と頭を下げると男性は笑みを浮かべながら言った。


「いえ、お気になさらないで下さい。医者としての使命感で治療をしたまでですから。それでは私はこれで失礼しますね。」


男性は頭を下げると、階段を登って行った。その姿を見届けると、私もオスカーの部屋へと向かった。


コンコン


「・・・誰だ?」


扉の奥からオスカーの声が聞こえてきた。


「・・私です。アイリスです。」


「何?アイリスだと?すぐに中へ入ってくれ。」


「はい、失礼致します。」


カチャリとドアを開けると、そこにはベッドの上で起き上がっているオスカーの姿が有った。もう付け髭も黒いカツラも外されている。オスカーが自分で外したのだろうか?


「アイリス・・・。」


「オスカー様・・・。」


オスカーの名を呼ぶと、衝撃的な言葉がオスカーから出てきた。


「アイリス、教えてくれ。一体ここは何所なんだ?何故・・俺は怪我をしている?お前は・・何か知ってるのか?」


「え・・・?」


その言葉を聞いた私は背中に丸で冷水を浴びせられたかのようにぞっとした。ま・・・まさか・・オスカーが意識を失っている間に・・・また人格が入れ替わってしまったのだろうか?今のオスカーは微量に「エルトリアの呪い」に侵されてしまったオスカー・・・?


「あの・・オスカー様は・・・。」


怖くてドア付近に立ったままでいると、オスカーが手招きをしてきた。


「アイリス、こっちへ来てくれ。」


「は、はい・・・。」


躊躇いがちに私はオスカーの傍へ行くと、いきなり左腕を掴まれて抱き寄せられた。


「オ、オスカー様っ?!」


咄嗟に押しのけようとしてオスカーの包帯を巻かれた胸を押してしまった。


「うっ!」


途端にオスカーの口から苦しそうな声が漏れる。


「あ、す・すみませんっ!オスカー様っ!驚いてしまって・・つい・・!」


顔を上げてオスカーを見ると、彼はニヤリと笑って、再び私を胸に抱きしめてきた。


「アイリス・・・。」


そして私の髪に顔をうずめて来る。


「あ・あの・・・傷に触りますのでこのような真似は・・・。」


オスカーの傷の事を考えると私が押しのける訳にはいかない。仕方が無く、そのままの恰好でいると、オスカーが口を開いた。


「アイリス・・・教えてくれ・・。俺の身に一体何があったんだ?お前なら・・しってるのだろう?俺に一体何があったのか・・・。」


「オスカー様・・・。」


私は深呼吸すると言った。


「オスカー様・・・落ち着いて聞いてください。その怪我は・・王宮の兵士たちにやられたそうです。そして・・オスカー様は・・国王陛下から指名手配されてしまいました・・。」


すると私の頭の上でオスカーが息を飲む気配を感じた―。



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