第6章 16 運ばれるオスカー
男性が宿屋の中へ入って行ったので、私は椅子に横たわっているオスカーの傍に寄り、そっと名前を呼んだ。
「オスカー様・・・。」
「・・・。」
しかし、完全に意識を失っているのか、オスカーは返事すら返さない。上着の下の白いシャツの下からはうっすらと赤い血が滲んでいる。
「まさか・・動いたせいで傷が開いてしまったのかしら・・。」
黒髪に黒いつけ髭姿のオスカーの顔色は青ざめて、額には汗がにじんでいる。
「オスカー様・・・どうかしっかりして下さい・・・。私が頼れるのは今貴方だけなのに・・。」
その時・・。
ガチャリ
馬車の扉が開かれた。
「お嬢さん。宿屋の空き室がありました。ただ・・部屋が2階になるので担架で運ばなければりません。今準備してくるので少しお待ちくださいね。」
「は、はい・・。」
返事をすると、男性はまた宿屋の中へと入って行った。
それから5分ほどたってから男性が宿屋の従業員男性と長い2本の竹竿と折りたたんだシーツを持って戻ってきた。そしてシーツを広げると竹竿をシーツの上に乗せて、あっという間に担架を作りあげた。
そして私に言った。
「それではその男性を運びますのでお嬢さんは馬車から降りていただけますか?」
「はい、分かりました。」
馬車から降りると、すぐに従業員男性と共に2人がかりでオスカーを馬車から降ろすと担架に乗せて、持ち上げた。
「ではお部屋へ運びましょう。」
男性に声を掛けられた従業員男性はうなずくと、オスカーを2階の部屋へと運んでいく。私は黙って2人の後をついて行った。
階段を上り、201号室と書かれた木の扉の前で止まると男性が私に声を掛けてきた。
「お嬢さん、ここが部屋になります。開けていただけますか?」
「はい、分かりました。」
ドアノブを回して扉を開けると、真正面に大きな窓ガラスが見えた。窓のすぐそばにベッドが置かれている。2人はオスカーを運び入れると慎重にベッドへと寝かせた。
「ありがとう、助かったよ。」
男性は従業員にお礼を述べると、彼は頭を下げて言った。
「いえ、また何かございましたらお呼びください。」
そして頭を下げると部屋から去って行った。
「さて・・傷の具合をみるので・・・お嬢さん。貴女には刺激が強いかもしれないので部屋の外で待っていてもらえますか?」
男性は私を振り返ると言った。
「はい、分かりました。では1階のフロアで待っています。」
「では処置が終わりましたら、呼びに行きますね。」
「よろしくお願いします。」
私はそれだけ告げると、部屋を出て階下へと降りて行った。1階のフロアには大きなソファがいくつも並べられ、数人の宿泊客が座って新聞を読んだり、本を読んでいる姿が目に入った。
そんな彼らの様子をぼんやり眺めながら今後の事を考えていた。
酷い怪我を負ったオスカーが追い出されるように出て行ってしまったので、着の身着のままで屋敷を出てしまった。きっと今頃大騒ぎになっているに違いない。だけど私にはとても今の状態のオスカーを見捨てる事は出来ない。何故なら今のオスカーはまぎれもなく本物であり、70年前の彼とは全くの別人だからだ。それに私を助けられるのは・・イリヤ家ではない。フリードリッヒ3世の間の手から救い出してくれるのはオスカーに他ならないと確信があるから・・尚の事私はオスカーから離れるわけにはいかないのだ。たとえオスカーがウィンザード家から指名手配されようとも・・。
そこまで考えていると、何故か急に眠くなってきてしまった。朝から色々あったので疲れてしまったのかもしれない・・。そして私はウトウトしているうちに・・いつの間にか深い眠りについてしまった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます