第6章 8 目覚めたオスカー
うっすらと目を開けたオスカーに私は声をかけた。
「オスカー様。目が・・・覚めましたか?」
「ア・・アイリスか・・?」
「はい、私です。アイリスです。」
オスカーは信じられないとでも言わんばかりに私の顔を凝視する。
「オスカー様・・・・。一体どうされたのですか?」
「アイリス・・。ここは・・現実の世界なんだよな?幻では・・無いんだよな?」
何故か念を押して尋ねてくるオスカーに私は頷いた。
「はい、そうです。オスカー様。ここは現実の世界です。夢でも幻でもありませんよ?昨日オスカー様はアカデミーを1日お休みされておりました。何かあったのではないかと気になっていたところ、今朝・・イリヤ家にいらっしゃったのです。体中にひどい傷を負って・・。オスカー様は私を見た後・・・気を失って、この救護室に運ばれて外科医師から手当てを受けました。そして手当てが終わったオスカー様に今会いに来ている最中なのですよ?」
私はオスカーが今の自分の状況を知りたがっているのだと思い、具体的に説明した。
「そう・・だ・・・。俺は・・アイリス。お前が無事かどうか・・気になってここまでやってきたんだ・・・。」
オスカーは振り絞るような声で言う。
「オスカー様。一体昨日何があったのですか・どうしてこのようなひどい傷を負っているのですか?オスカー様、今の貴方は・・・。」
そこまで言って私は言葉を切った。・・とても聞けなかった。今の貴方は・・・本物のオスカーなのかと・・・。しかし本人にしてみれば、全員本物のオスカーなのかもしれない。だけど私にとってのオスカーは『エルトリアの呪い』に侵されていない彼だけだ。でも・・そんなことを本人の前で聞けるはずはなかった。そんな事を尋ねれば・・・きっと、オスカーを傷つけるか、怒らせてしまうかのどちらかになってしまうだろう。
「何だ?アイリス。今・・・何を言いかけたんだ?」
オスカーはベッドに横になったまま不思議そうに私を見つめる。
「いいえ・・・何でもありません。それで・・オスカー様。今お身体の具合はどうですか・・?お話する事は可能でしょうか?」
「あ・・ああ・・。大丈夫だ・・・。きっと処置を施した・・外科医の腕が良かったんだろうな・・・。痛み止めも効いているのか・・・今は痛みも感じない。」
先ほどよりは顔色が良くなったオスカーは少しだけ口元に笑みを浮かべた。
「そうですか。なら・・・良かったです。では、無理の無い範囲で教えて下さい。」
「ああ、分かった。」
オスカーは一度顔を私の方にむけ、弱弱しく微笑むと正面に顔を戻して深いため息をつき・・・ポツリポツリと語り始めた。
「・・・俺は・・自分の体が別人格に変わる時の記憶が・・いつもあやふやになるんだ・・・。しかもいつ、どこで別人格に入れ替わるのかも良く分からない。あの時・・城を追われた後・・・お前と2人で集落に立ち寄ってそこで襲撃されただろう?だが、あいつらのお陰で俺はお前を連れて・・逃げる事が出来た。」
「ええ、そうでしたね・・・。あの方たちがいなければ私たちは逃げおおせることが出来ませんでした。」
「・・・本当はお前を逃がした後・・あいつらの事が気になり・・・集落へ行こうとしたんだ。なのに・・どこかで人格が入れ替わったんだろうな。気が付けばこの都市にあるウィンザード家の屋敷にいた。」
「・・・・。」
私は静かにオスカーの話を聞いていた。
「そこで、俺は・・・・急いであの集落へ行ったんだ。そうしたら・・」
そこでオスカーは眼をギュっとつぶり、悔しそうに口をつぐむと両手をグッと握りしめた―。
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