第6章 7 救護室の2人

「オスカー様。と、とにかく傷が酷いです。早く手当てを・・。」


しかし、オスカーは私を抱きしめる腕を緩めない。そして言った。


「だ・・駄目だ・・。もう少しだけ・・このままで・・。お前の無事を・・・確認しておきたいんだ・・・。」


そしてますます強く私を抱きしめてくる。大きなオスカーの体は・・小刻みに震えていた。


「オスカー様・・・。」


私はオスカーの気が済むまで・・・そのままでいた―。



 どのくらいそうしていただろうか・・・やがてオスカーは息を吐くと私から身体を離し・・・口を開いた。


「アイリス、俺は・・・・。ウッ!」


突如、オスカーが膝をついた。


「ど、どうされたのですか?!オスカー様?!」


慌てて助け起こそうとしたとき、私は気が付いた。オスカーは背中から血をながしていたのである。見ると背中には剣で切られたかのような傷跡がありそこから出血している。そしてそのままオスカーは地面に倒れてしまった。


「キャアアアッ!!オ、オスカー様っ!」


思わず悲鳴を上げると騒ぎを聞きつけて、メイドのリリーの他に3名の警備兵たちが駆け付けてきた。


「ウッ!こ、これは・・・!」


「ひどい傷だ・・!」


「と、とにかくお運びしろっ!丁重に!」


そしてすぐにオスカーは警備兵たちに抱え上げられると屋敷の中へと運ばれていく。


「ア、アイリス様・・。」


リリーが震えながら私の手を取った。


「リリー・・・。私は今日、アカデミーを休むわ。オスカー様が心配だから。それに・・・何があったか聞きたいし。」


「わかりました。では私がアカデミーの方には伝えておきます。」


「ええ、お願いね。」


そして私は急いでオスカーの後を追った―。




 オスカーは邸宅の救護室へと運ばれた。私は救護室の前に置かれた椅子に座りじっと入り口を見つめていた。イリヤ家には直属の医師が常駐しているので、今オスカーは医師の治療を受けているのだ。


「オスカー様・・・。」


椅子に座り、両手を組んで待っていると突然ドアが開かれ、私は顔を上げた。

そこに立っていたのは外科医師のジェレミー医師である。この世界で治癒魔法を使える存在はごく限られた人物のみで、現状は外科医が傷の治療を行っていた。


「あの、オスカー様の具合はどうなのでしょうか?」


ジェレミー医師に尋ねると、彼は私を見た。


「ええ、傷の手当は済みました。今は眠っていますが・・会っていかれますか?」

 

「はい、会います。」


立ち上がって、ドアノブに手をかけた時背後からジェレミー医師が声をかけてきた。


「それにしも・・・。」


「え?」


「いえ・・まさかオスカー王子があれほどまでにアイリス様に入れ込んでおられるとは思いもしませんでしたよ。」


意味深な言葉を言ってくる。


「あの・・・?」


私は振り返った。


「・・治療の間・・意識を失っておられる中でずっとオスカー王子はアイリス様の名前を呼ばれ続けていたのですよ。あそこ迄アイリス様は愛されていたのですね。」


その言葉を聞き、私の頬はカッとなった。


「からかわないで・・ください。」


短くそれだけ言うと、ドアを開けて室内へと入った。

救護室は広く、治療用のパイプベッドが窓側に頭を向けて10台並べられているが、それでも有り余るほどの広さがある。部屋の大きな窓は少しだけ開けられ、そこから風が吹き込み、部屋の白いカーテンを舞い上げている。そして舞い上がるカーテンに隠れるようにオスカーが中央のベッドに寝かされていた。


「・・・。」


私は無言でオスカーの眠っているベッドに近づき、窓際に置かれている丸椅子を一つ持ってくると、オスカーの傍に座った。

上半身裸の体には幾重にも包帯がまかれ、どれほどの傷だったのかを改めて思い知らされた。顔は何者かに殴られでもしたかのようなあざがあり、所どころ赤く鬱血した後もみられる。


「オスカー様・・・一体・・何があったのですか・・?」


私はポツリと呟き、指輪をはめていない左手でキルトからはみ出ていたオスカーの右手に触れた。


「う・・・。」


オスカーの口からうめき声が聞こえ・・・やがてゆっくり目を開けるとオスカーは目を瞬せ、私を見つめた―。



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