第6章 4 鍵

 え・・?一体エルンストは何をしているの?どうして・・・タバサの間に跪いているの?おまけに彼がタバサを見つめる瞳は・・どこか恍惚としている。


「エルンスト。さあ私たちと行きましょうか?」


タバサは右手の甲を跪くエルンストの前に差し出すと、彼はその手を取り、口付けた。


「!」


同じだ・・あの光景はレイフの時と・・・。思わず身体を震わせながら2人の様子を見つめていると、タバサが私の方を見つめ、勝ち誇った笑顔を向けた。そして隣に立つレイフと跪くエルンストを交互に見ると言った。


「さあ、2人とも・・・エドワードが待っているから馬車へ行きましょう。」


「「はい、タバサ様。」」


そして3人は背を向けると私を残し、歩き去って行った―。




「ごめんなさい、お待たせしてしまったわね。」


意気消沈して現れた私を御者の男性は嫌な顔一つせずに御者台で待っていてくれた。


「いいえ、とんでもございません。それでは早速帰りましょう。」


「ええ、よろしくね。」


私は馬車に乗り込むと窓から夕空を眺めながら先程のタバサの事を思い出していた。

70年前・・・あの時は朝、登校してみれば私の状況は一変していた。幼馴染であれほど親しかったレイフが、エルンストが、エドワードが・・何故か冷たい態度を取ってきたのだ。挨拶をしても無視され・・話しかけようとすれば睨まれる・・当時親しい同性の友達がいなかった私にとっては3人の急変した態度は・・・本当に辛かった。そして逆に彼らはタバサと親しくなっていた・・・。


「ふう・・・。」


もうこれ以上前世の記憶を思い出せば、また気分を悪くして倒れてしまうかもしれない。私は過去の事を思い出すのはやめにして、次にタバサの事を考えた。

あの時・・・タバサの目がが赤く変化し、一瞬光り輝いたのは・・何だったのだろう?そう言えば、タバサは邪眼がどうの・・と言う話をしていたことがある。邪眼とはいったいどういう事なのだろう・・?

ただ、確実に言えることはエルンストはタバサの目が光ってからおかしくなった。恐らくレイフがおかしくなったのもタバサが原因だろう。


「だけど・・・どうすればあの2人を元に戻すことが出来るのかしら・・?」


私は窓の外を眺めながら、ポツリと呟いた―。





「え・・・?図書館の鍵を貸してもらいたい・・だと?」


屋敷に帰宅した後、私は父の執務室へと足を運んでいた。ちょうど父は机に向かい、書類にサインをしている最中だった。


「はい。お父様。このイリヤ家の図書館で調べたいことがあるのです。」


父に頭を下げた。

ここ、イリヤ家が代々領主として治める女神像の都市『リオス』は、はるか昔に邪神がこの地に降り立って人々を苦しめた時、女神「リオス」が現れ、不思議な力を使い邪神をこの大地に封印したという伝説が残されている。もしかすると邪神と、タバサが呟いた邪眼には何らかの関係があるのではないかと思ったからである。


「ふむ・・・。あの図書館に置かれてある本は全て秘蔵の本ばかりで・・中には古代語で書かれているので解読できない本もあるのだが・・・まあアイリスの願いであるのなら聞き入れよう。」


父は椅子から立ち上ると、右側の壁面に並べられた本棚へ向かった。そしてある一部分に触れると、父の足元から小さな引き出しが飛び出してきた。父はしゃがむと引き出しから何かを取り出すと私に歩み寄って来る。


「アイリス、図書館の鍵だ。暫くお前に預けておく。無くさないように大事にしまておくように。」


「ありがとうございます。お父様。」


私は鍵をしっかりと握りしめた―。

 

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