第5章 13 引き継がれない記憶
「アイリス。何故俺の言う事を聞かなかった?」
オスカーの隣に座ると、早速尋ねてきた。
「申し訳ございません・・・・教室に戻った時に友人からまだレイフが教室に戻っていないと言う話を聞いて・・まさかあのまま中庭で倒れているのではと思い、様子をみに行ったのです。」
「俺はお前に言ったよな?今後はあの男とは2人きりでは会うなと?そんなに・・あの男の事が心配だったのか?お前はレイフの事が好きなのか?」
オスカーは私の左手をグッと握りしめてきた。
「・・・。」
何だろう、このやりとり・・これでは先ほどのレイフと同じやり取りだ。
「いえ、そう言う訳ではありません。レイフには特に恋愛感情を持ってはおりません。」
確かに子供の頃、私はレイフの事が好きだった。けれども・・・今は全く恋愛感情は持っていない。70年前の壮絶な経験が・・私のレイフに対する淡い恋心を消し去ったのだ。
「なら、あいつの事は放っておくべきだったんだ。大体・・何故あんな場所で倒れていた?」
オスカーはじっと私の顔を覗き込むように質問してくる。
「それが・・・中庭を覗いてみると・・レイフとタバサ様が・・ベンチに座っていて・・・。」
「まさか、それがショックで廊下で気を失って倒れたのか?」
「いいえ。そんな事はありません。ただあの直後に酷い眩暈に襲われて・・・それで廊下の壁に寄りかかってしゃがんだのですが・・・そのまま気を失ってしまったようです。」
「気付けばお前が教室から消えていた。だからひょっとすると中庭へ向かったのではと思って探しに行けば・・・お前が廊下で倒れていたんだ。だからすぐに馬車を呼んでお前をイリヤ家へ連れて帰って来たんだ。とにかく・・・二度と俺との約束を破るなっ!レイフには近付くんじゃない!分かったか?!」
オスカーは強い口調で私に言った。
「はい・・・分かりました。」
私は返事をしたが、心の中で思った。今のオスカーは・・もし明日、別の人格になっていれば、その考えはどうなるのだろうかと―。
「さて・・・アイリスの意識が戻った事だし・・俺はそろそろ帰る事にしよう。」
オスカーが立ち上がったので、私は肝心な事を聞かなければいけないことを思い出した。
「あの、オスカー様は今どちらにいお住まいですか?」
「俺か?」
「は、はい・・・。」
「そんな事は決まっているだろう?王宮に住んでいるに決まっている。」
え・・・?
私はその言葉を聞いて血の気が引いた。そんな・・・・。呪いに犯されていなかったオスカーは・・私を連れて王宮から一緒に逃げ出したのに?今のオスカーは王宮に住んでいる・・?
その時、耳を疑うような台詞がオスカーの口から出てきた。
「そう言えば、アイリス。父上がアイリスに会いたいと言ってるのだが・・今度城に来る気はあるか?・・最も俺は正直に言うと父と会わせたくは・・・え?どうした?アイリス?」
青ざめた顔で両肩を抱きしめて震えている私に気付いたオスカーは訝し気な目で私に尋ねてきた。
いや・・・怖い。私はもう二度と・・王宮には行きたくない。まして、国王陛下に等・・・絶対に会いたくはない!どうすればいい?私はどうすれば自分の身を保全する事が出来る?
私はオスカーを見つめた。
「オスカー様・・・・。私の事・・・どう思っていますか?」
今のオスカーも私の事を好いてくれているのは分かっている。だけど、ここはあえて尋ねる事にした。
「え・・?アイリス、お前何を突然に・・?」
オスカーは目を見開いて私を見ている。
「私の事・・・好きですか?」
本来の私であれば、こんな質問絶対にしない。だけど、今は―。
「お前・・・好きでなければ・・一緒にいるはずがないだろう?」
オスカーは頬を染め、私から視線を逸らすように言う。
「だったら・・・、お願いです。私は・・・陛下が怖いのです。だからどうか、王宮に連れて行かないで下さい。お願いします・・・。」
私はオスカーの胸に頭を付けた―。
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