第3章 12 選んだドレスは

「オスカー様にお会いしたのですか?」


メイドは冷たい声で私に言う。


「は、はい・・・。」


しっかりしなければいけないのに・・・私の声は震えてしまう。


「それではまず陛下にお目通りをなさってからにして下さいませ。そしてアイリス・イリヤ様ご自身で御頼みして頂けますか?私の一存では決める事は出来かねますので。」


「そ、そんな・・・。」


駄目だ・・・国王に会ってはいけない・・・。何故かは分からないが、恐ろしい予感がする。もし会ってしまえば引き返せなくなる気がしてならない。だが・・・。必死でお願いすれば・・先にオスカーに会わせてもらえるかもしれない。だって私は・・まだ確定はしていないが、彼の婚約者なのだから。


「わ、分かりました・・・・。陛下にお会いして・・・自分で頼みます・・・。」


私は観念した。するとメイドはドレスを見渡した。


「それでは、アイリス・イリヤ様。その制服は血で汚れておりますので、お着換えをなさる為にもドレスをお選び下さい。」


「い、いえっ!わ・・私はアカデミーの制服で・・・。」


言いかけた処へメイドがピシャリと言った。


「いいえ、それはなりません。陛下のご命令なのです。ここにあるドレスを選び、美しく着飾ったアイリス・イリヤ様をお連れするようにと仰せつかっております。」


「な、何故・・・・陛下がそこまで・・・?」


「さあ、私はただのメイド長であります。陛下のお考えは分かりかねます。」


冷たい表情のまま、そのメイドは頭を下げた。そうか・・この女性は・・メイド長。

それならある程度の権限はあるはず・・・。なら・・・。


「嫌です。」


私は言った。


「はい・・・?今何と言われましたか・・・?」


始めて、メイド長の顔の動きに変化があった。


「だから、嫌ですと言ったのです。私はオスカー様の婚約者です。先に彼に会わせて頂かない限り、陛下との謁見はお断り致します。」


「・・・何を仰るのですか?一体貴女は・・・。」


「それはこちらの台詞です。私はアイリス・イリヤ。仮にも王族の次に権限を持つ・・公爵家の人間です。それを・・・幾ら陛下のご命令とはいえ・・・貴女に指図されたくはありません。」


「・・・!」


メイド長は眉をしかめて私を見た。


「どうしても言う事を聞かせたいのであれば・・・まずはオスカー様に会わせて下さいっ!」


私はきっぱり言い切った。もし、これでも駄目ならあのメイド長にこの・・・右手で触れて彼女の考えを読むしかない。そうすれば何か活路を見出す事が出来るかもしれない・・・。


「・・・。」


メイド長は少しの間、私を見つめていたが・・・やがてため息をついた。


「分りました・・・・。どうしてもそこまで仰るなら・・・オスカー様の元へご案内させて頂きます。ですが・・どうかお召し物だけでもお着換え下さい。」


「制服では駄目ですか・・?」


「それだけは出来かねます。私だけでなく・・先程の兵士も陛下から罰を受けてしまいます。」


え・・・あの若い兵士まで罰を・・・?


「分りました・・・。なら選びます・・。」


私はドレスを見て回った。どのドレスもそれは立派で美しい物ばかりであった。・・本当に陛下は一体何を考えているのだろう。美しいドレスを着た私に会うのが目的なのだろうか・・?だが、言いなりになるのだけはごめんだ。

私はじっくりと見て回り、一番地味なドレスを選んだ。それは夜空のような紺色のスレンダーラインのドレスだった。サテン地のドレスにはスカート部分にオーガンジーが縫い付けられている。


「これを着ます。」


私はそのドレスを指さすと言った。


一瞬メイド長の眉がピクリと動いた。

恐らく地味なドレスを選んだのが気に入らなかったのかもしれないが、私は絶対に華やかなドレスを着て陛下に会いたくは無かったのだ―。

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