第683話 食事会の余談ですが何か?

 王宮で内々に行われたノーエランド王国食文化への理解をしてもらう為の食事会は、リューと料理人達の努力もあって大成功に終わった。


 特に、生魚が新鮮だととても美味しいことを、国の上層部が知ったのは大きいだろう。


 とはいえ、王都は内陸にあり、新鮮な魚を入手するにはコストがかかり過ぎるというのも事実である。


 だが、『次元回廊』と大容量の『マジック収納』を持っているリューだけは、その不利な要素を克服できるから、王宮では海鮮の仕入れを検討することにしたのは事実であった。


 そして、リューはこの機会を逃さないとばかりに、ノーエランド王国のお米も強く勧めていたし、他にノーエランド王国は畜産業にも力を入れており、いろんな種類のお米を飼料に育った牛や豚、鶏のお肉も美味しいから勧めたいところだ。


 しかし、これはまだ、今回のテーマが海鮮だったから勧めておらず、ノーエランド王国大使と調整をして後日勧めていく予定である。


 リュー個人で輸入して王宮に勧める手もあるのだが、ここはノーエランド王国との結び付きを強める為、話を持ち掛けるつもりだ。


「少し時間がかかったけど、これで海鮮系食材が王都で広まるきっかけになるかもしれないね」


 リューは帰りの馬車でリーンに安堵の感想を漏らした。


「それでも新鮮さを考えたら、王宮で陛下の口にたどり着くまでに傷む可能性はあるのよね? それだと今回みたいに一切の手続きや工程を飛び越えるやり方をしないと生魚の流通は難しくない?」


 リーンがずっと立ちはだかっていた問題が根本的に解決していないことを指摘した。


「ふふふっ。だから、現在、王都やその周辺の魔導具専門店、またはオークションを巡って、マジック収納付き魔導具の入手を進めているんじゃない。今のところ大金をはたいて二十数個入手しているからね。これを使ってある体制作りを進めるのさ」


 リューはノーエランド王国から戻って以来、考えていた案をすでに実行していた。


「主はマジック収納があるのに、そんなに集める必要があるのですか?」


 護衛役のスードが二十数個もマジック収納付き魔導具を集める必要性の疑問を口にした。


「毎朝、僕がファイ島の市場で新鮮な魚を仕入れるまでは良いけど、その後が不安だったわけじゃない? だから、各購入者用のマジック収納付き魔導具を用意し、仕入れたものをそこに詰めて、各店舗に持ち帰ってもらうというわけ。これなら、傷む時間はほぼなく、新鮮な状態でお客の口に入ることになるのさ。もちろん、魔導具の貸し出し料も徴収する予定だけどね。あと、契約している漁師さんにも貸し出してさらに新鮮さを維持してもらうという方法も考えているよ」


 リューは元手がかかるので他ではマネできない流通方法を口にした。


「元手を取り戻すのにどのくらい時間がかかるんですか?」


 スードはマジック収納付き魔導具はとても高価なので、思わず指を折って計算する素振りを見せて指摘する。


「最初のうちは王宮、貴族相手の商売だから、価格は高めを設定しているよ。実際、あんな新鮮なものを王都で食べるということは、ほぼ不可能なことだからね。でも、多少高い対価を支払ってでも美味しいものを食べたいと思うのが、上流階級の舌が肥えた人達だから、その辺りはうまく値段設定するつもりさ。だから元手は数年くらいで回収する予定だよ」


 リューは悪い顔をすると、ニヤリと笑みを浮かべた。


「スード、リューにお金の話をしないの。お金が絡むとリューはいつも以上に頭の回転が速くなるんだから。それに悪い顔もするし」


 リーンが呆れた様子でそう注意する。


「ちょっとリーン。僕はファイ島やノーエランド王国までの時間短縮、新鮮さ、安全性を担保した価格設定をしているだけだからね? それプラス貴族料金設定というかなんというか……」


 リューはリーンに反論しつつ、自分の正当性を訴えた。


「貴族料金設定、つまり、ぼったくりね?」


 リーンが鋭い指摘をする。


「ぼったくりですね」


 スードもリーンに賛同して、頷く。


「二人共、これはちゃんとした商売だからね!? 海鮮を世間に広める為には投資する分、元を取らないといけないんだから! ──多少、お金のあるところからぼったくるのは否めないけど……」


 リューは二人に再度反論したが、やはり、ぼったくる気があることは認めるのであった。


「でも、リューの狙い通りね。流行は貴族など上流階級から生まれることが多いのが王都。海鮮を広めるならその上流階級を攻めた方が問題も早く解決するもの」


 リーンは、リズ王女には国王に海鮮の美味しさをアピールしてもらい、今回の内々の食事会に持ち込んだことに感心する。


 形式上は国王が言い出したことになっているが、裏で動いていたのはリューであった。


「貴族のみなさんは、新しい物好きな方が多いみたいですしね。一見未知の食べ物でも、好奇心が勝って食べてしまうという印象を持ちました」


 スードは一人が勇気を出して先に食べてしまうと、それに続いてしまう上流階級の人々をそう分析する。


「今回は陛下が音頭を取ってくれたから、それもかなりスムーズだったね。もし、僕個人が言い出しただけなら、こんなに上手くはいかなかったよ」


 リューは笑って応じると、新たな商売がまた順調に進みそうなので、満足するのであった。

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