第391話 友人からの情報入手ですが何か?

 リューは早速、ランスキーに頼んで勇者エクスとその取り巻きについて調べさせる事にした。


 だがランスキーも北部地方の情報網はなかったから、下級貴族の情報網を持つリューの歳の離れた貴族の友人、オイテン準男爵に何か情報がないか確認する為、接触しようと家に伺ってみた。


 オイテン準男爵は王都に屋敷を持てる程の資金力はないから、賃貸の小さい部屋を一つ借りて王都で活動している。


 夫想いの妻と子は普段、本領にいるから、出張する単身赴任の旦那のような立場であった。


「おお、これはランスキー殿!直接のご訪問、ご苦労様です。今日はどうなされました?」


 オイテン準男爵は、貴族とは思えない質素な部屋にランスキーを通すと、慣れた動作で貰い物である『コーヒー』を入れて、ランスキーをもてなす。


「お気遣いなく、オイテン準男爵殿。──実は、北部の情報をいくつか欲しいのですが……」


「ランスキー殿が直接来られるという事は、ミナトミュラー男爵直々のご命令ですな?そうなると北部の知りたい情報となると、……勇者関連でしょうか?」


 察しよくオイテン準男爵は頷いて、ランスキーの訪問の目的を当てて見せた。


「さすがオイテン準男爵。若のご友人だけあって、鋭いですな。──我々の情報網は北部に無い為、苦慮しておりました」


「それならいくらでも協力いたしましょう。勇者エクスについては、サムスギン辺境伯が後ろ盾になっております。今、学校でご子息が勇者エクスと一緒に学校へ通っておられますが、エクスとは数年来のご友人とか。サムスギン辺境伯もエクスが勇者だと発覚する前から子息の友人としてお気に入りだったようで、勇者発覚後はすぐに後ろ盾に収まったようです」


「……ほう。サムスギン辺境伯は北部最大派閥の長ですよね?」


「ええ、その通りです。名家というだけならオチメラルダ公爵家も北部にはありますが、勢力としてはサムスギン辺境伯が一番ですね。元はオチメラルダ公爵家が北部の最大勢力だった時期もありましたが、先代がエラインダー公爵家と裏で衝突していた時期があり、それに負けた事によってオチメラルダ派閥は解体、政治的にかなり追い詰められて今は、オチメラルダ公爵家は見る影もない状態になっております。ちなみに我が寄り親であるノーズ伯爵家とも代々親交がありました」


「……名家だが、落ち目という事ですか。親交があったとは、……今ではもう?」


「ええ。オチメラルダ公爵家は徹底的にエラインダー公爵家に叩かれまして、親交を結んでいた貴族にもかなりの圧力を掛けました。我が寄り親ノーズ伯爵様もその圧力に抗いようがなく、縁を切った状態です」


「そこまで叩かれる程オチメラルダ公爵家は何かしたのでしょうか?」


「元々、エラインダー公爵家より名家でそれを代々オチメラルダ公爵家は鼻にかけておりました。王家と揉める事もあった事から代々煙たがられていたのです。そんな中、先代オチメラルダ公爵家がこちらも先代のエラインダー公爵家と王家の跡継ぎ問題について口を出して衝突したとか。オチメラルダ公爵家はすでにこの時、斜陽を迎えていたので勢いが凄かったエラインダー公爵家に容赦なく叩き潰された形です。王家もオチメラルダ公爵家の代々に渡る専横ぶりには眉をひそめていましたから、両者の衝突は静観していたようです」


「……それで今の代で降爵の危機と」


「そういうことです。令嬢のエミリー嬢は、それを危惧しておりましたが、女性という事で学校も北部の名門女子校に通って少しでも将来、良き伴侶を見つけるように躾けられていたそうですが、彗星の如く現れた勇者エクスに未来を感じて学校を退学、王立学園を受験し直したようです」


「うん?勇者エクスは受験の時に自分が勇者のスキルを持っている事を知ったんじゃなかったか?時期的に合わないのだが?」


「はははっ!それは、演出ですよ。北部の有力貴族の一部では勇者スキル持ちの人物が現れたようだと、一年前には噂されていたようです。それが占いなのか鑑定なのかはわかっておりませんが、少なくとも後ろ盾に収まったサムスギン辺境伯は最初に気づいていたはずですよ。オチメラルダ公爵家はどこでその情報を知り得たのかはわかりませんが、勇者エクスの出現を知って王立学園を受験したのは確かです」


「……だが、なんでオイテン準男爵殿はそれを知っているのだ?」


 機密情報と思われる内容にランスキーはオイテン準男爵の情報収集量に舌を巻いた。


「下級貴族同士、他者の情報を得る為に、自分の手札を切って入手を試みます。私は相手の情報の価値を下げる事で、入手しやすくしているのです」


「価値を下げる?」


「ええ。その情報はみんな知ってますよと、こちらは態度で示すのです。ちょっとした情報を付けてあたかも本当にみんな知っているかのように見せる事が出来れば一番。その事によって相手に自分の情報が大したものではないと錯覚させ、情報を簡単に出させる。こちらはそれに見合ったちょっとした情報で済む。というわけです」


「……驚いた。意外に狡猾な情報戦をやっていますな」


 ランスキーは元武人で愚直なイメージがあったオイテン準男爵に新たな面を見出した。


「はははっ。私もこの歳になりますと、色々と経験を重ねております。騙される事も多かったのですが、家族を守る為に利口にならないといけませんでした。ですが、誠実さは忘れることなく接しております。信用は大事ですから」


 ランスキーはミナトミュラー男爵家の幹部の一人として情報収集の役目を担っている。


 部下も優秀だし大概の情報はすぐに入手可能だと思っていたのだが、貴族関連の情報入手についてはオイテン準男爵に敵わないと思うのであった。



 ランスキーはオイテン準男爵からの詳しい情報を報告した。


「……それは興味深い情報だね。というかオイテン準男爵の情報網凄くない!?」


 リューは情報内容もそうだが、友人の貴族に関する情報網の凄さに感心した。


「俺もあの方には驚かされましたよ」


 ランスキーも心の底から頷く。


「私が勧めた人物だもの、オイテン準男爵もそのくらいはやってくれるわよ!」


 リーンはまるで自分の手柄のように胸を張るのであった。

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