第380話 一家の報告会ですが何か?

 リューは休みの期間中は王女一行の南部旅に同行していたので、それ以来となるマイスタの街へ帰って来た。


 ちなみに、休み期間中はランドマークビルにはほぼ毎朝、『次元回廊』で戻って来てランドマーク本領との荷物運びを行っていたが、誰かに見られる可能性もある為、表には出る事無く戻っていたので、マイスタの街には本当に久し振りに帰って来たのであった。


「「「「若、お帰りなさい!お勤めご苦労様です!」」」」


 街長邸に入ると、執事のマーセナル、ミナトミュラー一家総責任者ランスキー、竜星組責任者マルコ、ミナトミュラー商会責任者ノストラ、表と裏の実行部隊責任者ルチーナがミナトミュラー家の留守番役として出迎えると、一同は執務室に移動した。



「みんなご苦労様。──留守中は何もなかった?」


「へい、いくつか各担当で問題もありましたが、各自で対応しており、大きな問題になっているものはないです」


 ランスキーが全員を代表して答えた。


「じゃあ、詳細は一人一人聞いて行こうか。マルコから報告をお願い」


 リューは、早速、仕事の話を始める。


「はい。若の留守の間、王都のシマの方で東部地方から王都に入って来た小さい組織とのトラブルがいくつかありましたが、ルチーナに動いてもらってすぐに解決してあります。どうやら、東部での競争に負けた組織が王都で一旗揚げようとしてやってきたみたいなんですが、王都の裏社会のルールを理解していなかったのできっちり教えておきました」


「東部の?……そう言えば、あっちは今、裏社会の方は広範囲でとんでもない抗争状態らしいね。今後もまた、そういう事あるかもしれないから気を付けておいて」


「「はい!」」


 マルコとルチーナが返事をする。


「次、ノストラ」


 ランスキーが商会責任者であるノストラに発言を促した。


「うちの方は本家であるランドマーク商会の運輸部門との提携で王都外へ色々と商品の輸出にも力を入れているわけだが、一部の王都内外の大商会がこれに警戒しているみたいだ。特に王都外の地方商会などからはクレームもいくつか来ていてさ、『暗黙の了解を破るな』だそうだ」


 ノストラが呆れる様に首を振って答えた。


「まぁ、昔から互いの縄張りを尊重して手を出さないというのはあったからね。でも、行商を使ってその境を荒らすなんて事はよくあったし、金にものを言わせてほしい一帯の小さい商会の権利を強引に買い取って縄張りを広げるなんて事はあったんだけどねぇ」


 表と裏の商売のグレーゾーンについて詳しいルチーナが指摘した。


「そうだよね?うちはどっちかというと正当な手続きで問題を起こさず縄張りを広げている分、真っ当なんだけどなぁ」


 リューは、ルチーナの話に答えながら、首を傾げる。


「出る杭は打たれるもんさ。本家のランドマーク商会、その下のミナトミュラー商会はその杭が大きく出ているもんだから、地方の大商会は危機感から難癖をつけたいんだろうなぁ。ドラスタやニホン酒の勢いもあって、本家よりもうちに文句が言い易いんだろう」


 ノストラは暗に準男爵家という貴族としては基本は一代限りの低い地位だから舐められている原因の一つと言いたいようだ。


「ああ、それもあるのか……。あ、そうだった。みんなにまだ、報告していなかったんだけど、昨日、王宮で昇爵されて僕、男爵になったから」


 リューがリーンと視線を交わしながら、答えた。


「「「「えー!?」」」」


 突然の昇爵報告に、ランスキーはともかくとして、普段冷静なマルコやノストラ、ルチーナまで一斉に声を上げて驚いた。


「あははっ!そうだよね?僕も驚いているもの。でも、今回の昇爵は裏でイバル君と我がミナトミュラー家直下の部下達の働きが大きいかな。みんなが今回の王女一行の旅先で色々とお膳立てしてくれたりしていたから、王家の覚えが良かったんだと思う。元々はランスキーの率いていた部下でもあるし、ありがとうね」


「いえ、若。俺達は若の為だから頑張れるんですよ!それよりも、昇爵という事は祭りですね!?」


 ランスキーはリューの昇爵祝いを早速やり始めかねない鼻息の粗さである。


 マルコやノストラ、ルチーナもその言葉に頷いている。


「いやいや!この後、イバル君を迎えに南部に行かないといけないし、明日から新学期で学校だから!」


「ですが、若の男爵昇爵はマイスタの住民にとってもめでたいのは確かです。みなへの報告がてら魔法花火も打ち上げないといけません」


 ランスキーはすぐにでも部下に命じて打ち上げそうな勢いだ。


「さすがにそれは駄目だって!魔法花火の大きいのは許可貰わないといけない決まりになったじゃない!」


 そう、魔法花火の打ち上げは、王国騎士団本部に届け出を出しておく必要がある。


 元々、連絡などの信号弾であったものだから、それらと勘違いしない様に、あらかじめ届け出をして許可を取り、問題が起きない様にしないといけなくなったのだ。


 もちろん、許可はその領地の規模や位置にもよるのだが、マイスタの街は王都に近いので、届けを出さないといけない決まりである。


 それに以前、問題にもなったから仕方がないところであった。


「……わかりました。若がイバルを迎えに行っている間に、人を走らせます。──おい、事務所に行って申請書を作成してそれを一番足が速い奴に俊敏強化魔法を掛けて持たせて騎士団本部に走らせるんだ。そして花火打ち上げの許可を速攻で貰ってこい!」


「へい!」


 扉の外で待機していたランスキーの部下が、返事をすると走って出て行くのがわかった。


「あはは……。そんな大袈裟にしなくていいのに……」


 リューは呆れるのであったが、この後、リューが南部のエリザの街からイバルを連れて戻ってきた夕方には露店部門なども準備万端整っていた。


 そして、リューが街長邸の外に出ると同時に、夕焼けを背景に大量の花火が打ち上げられた。


 急遽とは到底思えない盛大な祭りが新学期の前日にマイスタの街では、明け方まで行われる事になるのであった。

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