第375話 久しぶりの魔境の森ですが何か?

 リューとリーン、スードの三人は祖父カミーザが引き受けている魔境の森の更生施設、もとい、育成場を訪れていた。


「こんな地獄に子供がいるわけが……。──あれは……、若様!?」


「おいおい、若様がこんなところにいるわけ……、って本当だ!」


「姐さんも一緒だぞ!?」


『竜星組』、もしくはその傘下のグループから派遣されている若い衆達は、ここに送り込む時に初めて顔を拝む機会があった自分達のボスが、魔境の森の奥地に来るとは思っていなかったから、その姿を見て夢か幻のような扱いであった。


「「「お疲れ様です!」」」


 若い衆は本物だと理解すると、一斉に並んで挨拶をする。


「送り込む際は、態度悪かったのに相変わらずおじいちゃんの教育が行き届き過ぎて驚くね」


 リューは毎回驚く若い衆の変貌ぶりをリーンに漏らすのであった。


「カミーザおじさん、リューの注文通りにしてくれているだけでしょ?」


「確かにうちの業界、上下関係、挨拶の徹底は常識だから、おじいちゃんにはそれ頼んでいるけど」


 リューは苦笑して答えるのだったが、ふと一人だけその挨拶に続かない輩がいた。


 よく見るとそれは交易の街トレドでリーンに軽傷とはいえ、怪我を負わせたシシドーであった。


 そこに、祖父カミーザがリュー達の気配に気づいたのか三十人程の領兵を引き連れて森の奥から戻って来た。


「なんじゃリューにリーン、スードもこんなところで何をしとるんじゃ?」


 祖父カミーザは孫の訪問を嬉しそうに聞いてきた。


「おじいちゃん、お疲れ様。新学期まで時間があるから、またこっちでちょっと修行しようかなと思って」


「そうなのか?別にいいが、今、ちょっと手が離せない状態でな。儂らは今、ブラックオーガという亜種とやりあっとる最中なんじゃ」


「え?それって、オーガの変異種で冒険者で言うところのB級+以上の上位討伐対象だよね?」


「そうなんじゃ。他に沢山のオーガも引き連れておるから、ブラックオーガを直接狙う事もできなくてのう。領兵達と探りに行ってたところじゃ」


 祖父カミーザが仕留められずに苦戦する程の魔物は当然ながら、相当厄介な相手なのだろう。


「それでうちの若い衆は後方待機させていたんだね?」


「そんなところじゃ。何人かの見込みのある奴は偵察に出したりしとるんだがな。その中で、新米のシシドーとか言う奴はまだ、儂以外には態度悪いからみっちり教育してやりたいが、ちょっと手が離せん」


「じゃあ、僕達もブラックオーガ戦に参加するからシシドーも連れていっていいかな?」


 リューが手っ取り早く教育的指導が出来ると思ったのか、提案した。


「……ふむ。ちょっと実力不足じゃが、連れていくか。──おい、シシドー、リューの指名じゃ。ブラックオーガ戦にお前も連れて行ってやるぞ」


 祖父カミーザがリューに賛同すると、シシドーに気軽な感じで声を掛けた。


 シシドーは思わぬ指名に驚いている。


 明らかにたじろいでいるのは、ここに送り込まれての数日間で死ぬようなきつい目にあっているからかもしれない。


 だが、祖父カミーザの実力を恐れているのか、「わ、わかりました」と、敬語で答えた。


 だが、リューとリーンに対しては、まだ、認めていないのか睨み返す。


「……うん。根性はあるね。でも、リーンにまぐれで軽傷負わせたからって、勘違いしているのは理解させる必要があるかな」


 リューはそう方針を固めると、祖父カミーザ達と共に、魔境の森の奥地に入っていく事にするのであった。



 祖父カミーザと領兵達の案内でブラックオーガが籠っているという場所に到着した。


 そこまで、結構な距離、森の中を進んで来た。


 途中、オーク(豚頭の魔物)の群れに遭遇する事態に陥ったが、全員で対処し、すぐに全滅させた。


 意外にオーク相手にはシシドーも怖気づく事なく戦い、倒していたから腕はやはり立つ方だ。


 だが、見た感じでは対応できるのはオークレベルまでが限界の様な気がする。オーガ相手だと得物の分銅付き鎖では苦戦するかもしれない。


 まあ、これも経験だろう。


 と思うリューであった。



「ほれ、あれじゃ」


 祖父カミーザがブラックオーガを倒しづらいと言っていた理由がようやくわかった。


 森の奥にあったのは、岩で出来た砦だったのだ。


「中にブラックオーガがいるんじゃが、慎重で中々外に出てこなくてな。どうやら、うちの魔境の森内に築いている砦を真似して作ったようじゃ」


「頭がいいね……」


「うむ。だから厄介なんじゃ。良いものを真似するというのは、相当知恵が回る証拠だ。そこにうちの部下を、軽率に突っ込ませて怪我させるわけにもいかんからこっちも慎重になっとる」


「でも、僕やリーンが来たからおじいちゃんも存分に魔法を使えるよね?」


 リューのその言葉に祖父カミーザはニヤリと笑った。


「話が早いのう、うちの孫は。わははっ!」


「砦の壁は僕とリーンが魔法で破壊するね。おじいちゃんは中のオーガ達を火魔法で焼き払って。──これも渡しておくね」


 リューがそう言うと、マジック収納から魔力回復ポーションを数本取り出し、祖父カミーザに渡す。


 その一部始終を見守っていたシシドーは、半信半疑であった。


 カミーザは確かに強い。


 魔法も剣も化物の様な人物だ。


 だが、自分がまぐれで紙一重の差で負けたエルフはともかく、そのボスらしい子供はどうみても自分より多少下のはずだ。


 そんな子供が指揮を執るのが納得いかないばかりか、あの砦の強固な壁を破壊するという。


 ハッタリも良いところだと、シシドーはリューを侮るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る