第374話 残りの休みの使い方ですが何か?

 王女一行は、無事、予定の日程を消化して南部の王家直轄領に王家の威光を十二分に示して王宮へと帰還する事が出来た。


 リューが、最後の近衛兵を王宮に送り届けると、広場では終了の式典が始まっていた。


 リューはこの後、王家直轄領の領都、エリザの街からランドマーク本領まで『次元回廊』の出入り口を作りに戻るという事になっているから、式典の流れでマカセリン伯爵から今回の旅の成功における一端を担ったとして謝意を述べてもらい、それに対して会釈をし、謙遜してから早々に『次元回廊』で南部に戻るのであった。


「さすがにこれ以上あっちにいたら、帰るタイミング失うよね」


 リューは王家主催の式典をバックレた形だが、新学期が一週間後に始まるから、形式上は、早く『次元回廊』の出入り口の設置をして戻る為にランドマーク本領まで一週間以内に帰らないといけない事になっている。


 もちろん、それは表向きの理由である。


 出入り口を複数設置出来る以上、すぐにでも帰る事ができるが、それを知られるわけにはいかない。


 だからこそ、式典も早々に抜け出したのであった。


「あっちはどうだった?」


 南部に残っていたリーンが、リューに王宮の雰囲気を確認した。


「リズが簡単な報告をしてから、マカセリン伯爵が今回の報告書を代表して渡していたのだけど、その内容に国王陛下がとても満足してたかな。僕もお褒めの言葉を頂いたけど、新学期の準備をしたいので急いで帰りたいと思います、と答えて戻って来たよ」


 リューは出入り口の件に関して嘘を付いている事は心苦しかったが、知られるとそれ以上の問題になりかねないので我慢したのであった。


「そうね。じゃあ、今から一週間はこっちでゆっくり過ごせるわけだけど、予定通り、南部に『竜星組』の拠点作りをする形で良いかしら?」


「まぁ、最大で五日間くらいかな?あとは本当に新学期の準備もしないといけないでしょ?イバル君とスード君もいるんだし」


「二年生への準備は制服や運動着などのサイズ調整に新しい教科書くらいだから、部下にお願いしておいたから大丈夫だ」


 しっかり者のイバルは今回の仕事もあったのでちゃんと備えていた様だ。


「自分は何も準備してませんでした!」


 スードはイバルの言葉に少し焦りを見せる。


「大丈夫だよ。イバル君の言う準備は僕達の分も含まれているから」


 リューがそう告げると、イバルも当然とばかりにニヤリと笑う。


「そうなんですか?──安心しました……」


 スードはほっと安堵するのであった。


「それでは早速、南部でうちとやり合う気のある組織について、報告お願いできるかな、イバル君」


「それについてだが──」


 イバルは部下を使って調べ上げた事を報告する。


 まず、領都エリザにおける抵抗勢力はすでに潰したという。


 元々、一番大きいところをイバルとミナトミュラー家の精鋭の部下二百人が短時間で潰したのだ。


 それを知って他の組織は震撼していた。


 なにしろそれをやったのが王都最大の裏社会組織『竜星組』である。


 それが噂だけでなく実力を示して南部一の組織を一瞬で潰したとあっては、抵抗するだけ無駄と判断する組織の方が多かったのだ。


 それに、南部で勢いだけなら武闘派として一番と思われていたトレドの街最大の組織のボス、シシドーが王家の関係者に手を出して潰されたという噂もあったから、南部の勢力図は現在混沌としている。


 もちろん、それを好機とみて勢力を伸ばそうする組織やグループが存在したのも事実だったが、表立って『竜星組』を相手に戦争しようとする組織は限られるのであった。


「イバル君が優秀過ぎて、僕がやる事がなさすぎる件!」


 リューは、報告を聞いて、嬉しい悲鳴を上げた。


「イバル。美味しいとこをあんまり持っていきすぎると嫌われるわよ?」


 リーンが冗談か本気なのかわからないトーンでイバルを注意する。


「主とリーン様に同意です。イバルさん、駄目ですよ?」


 スードも便乗して言う。


「頑張った人間に言うセリフかよ、みんな! ──ちなみに、この会話の最中にも『竜星組』の傘下には降らないと宣言した組織を部下が潰しに行ってる」


 イバルはどうだと言わんばかりに、親指を立てて見せた。


「イバル君が、頑張り過ぎてる!」


 リューはがっくりと肩を落とす。


 イバルが頑張れば頑張る程、本当にやる事がないのだ。


「こうなったらイバルに後は任せて、私達はランドマーク領に帰って魔境の森で修行しない?」


 リーンが最近寄る事がなくなっている魔境の森コースを提案した。


「いいですね。自分も賛成です」


 少しでも強くなってリューに貢献したいスードは頷く。


「……久しぶりに行く?」


 リューも祖父カミーザの元での修行は久しぶりだ。


「くっ!俺はまた、魔境の森に行けないのか!」


 イバルは自分の頑張りが裏目に出た事を悟った。


「イバル君、頑張り過ぎないでね?一応、追加の兵隊はランドマークビル経由で補充するから、部下に任せてこっちにくるのもありだよ?」


「……いや、部下に任せっきりも申し訳ないから残るよ。リュー達もあんまり無茶するなよ?」


 イバルは無茶は無茶でも強くなりすぎるなよ?の意味で答えた。


「先に送り込んでいるシシドーや、定期の若い衆の更生次第かな?」


 イバルの言い方にリューも察してほくそ笑んで答えると、ランドマーク領にリーン、スードを連れて『次元回廊』で移動するのであった。

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