第359話 報告しましたが何か?
王女一行から遅れたリュー達が乗る馬車は、遅れる事一時間ほどで、途中で休憩を取っているところに追いついた。
早速、馬車を降りて一行の責任者であるマカセリン伯爵にリューは遅れた理由を報告に行く。
そこには、護衛責任者のヤーク子爵もいて、王女の従者の一人として同行しているランスと、リューの護衛役であるスードの三人は説教される事になった。
「その者達を逃がしたのか?王女一行の者に手を出した罪は大きいのだぞ?」
「その通り。厳正な処罰を与えて王家の威光を示さないと」
マカセリン伯爵とヤーク子爵はリューが逃がしたという報告に、厳しい表情を浮かべた。
「そうなるだろうと思い、一行から一時、僕達の馬車は離脱させてもらいました。ですから僕個人へのちょっかいだったという事で、二人については罪を問うのは勘弁してあげて下さい、お願いします」
リューは、そう言うと頭を下げた。
「……しかしだな、一人は次また襲ってくる可能性もあるのだろう?その元侯爵の領兵とやらは」
マカセリン伯爵は、可能性の問題を指摘した。
「そちらについては、もしまた襲ってきた時には、僕が責任を持って捕らえます。その時、王女殿下にご迷惑をお掛ける様でしたら、厳正な処罰をお願いします」
「……ミナトミュラー準男爵、そなたの腕は疑っておらんが、次からは近くの近衛騎士にも声を掛けて、対処するのだ、よいな?」
「はい。申し訳ありませんでした」
「ならば、以上だ。王女殿下とエルフの娘にも伝えるがよい。特にエルフの娘はお主の言いつけで王女殿下の傍を離れられなかったから、不機嫌であったぞ」
「あははっ……」
リーンは能力でリューが一行から遅れて行くのもすぐに気づいただろうし、悪意のある誰かと接触したのも気づいていただろうから、一緒の馬車の王女リズも不機嫌になっていくリーンに気を遣っただろう事が容易に想像できた。
実際、王女リズの元に報告いくと、リーンはリューの顔を見るなり愚痴をこぼした。
「私のいないところでずるいわ!」
「いや、ずるい、ずるくない、の問題じゃないから!」
リューもリーンの第一声にはツッコミを入れた。
「次の場所まで付いて来させれば、その時でもよかったでしょう?」
「それだと、王女一行に手を出した事を咎められて、重罪決定じゃん!」
「それは相手が悪いのだから、仕方がないじゃない!」
「でも、少なくとも二人は悪い人じゃなかったから!」
リューとリーンは口論になるのだったが、王女リズがその光景を見て、吹きだした。
それにつられてランスとスードも一緒に笑う。
「二人共、何もなく丸く収まったのなら、それでいいのではないかしら?ふふふ」
王女リズは、仲の良いこの二人が微笑ましく映った様だ。
「俺達も一緒だったからリューの弁護をさせてもらうと、あの判断は正しかったと思う。王女殿下一行にも迷惑を掛けず、最低限のトラブルに収まったと思うぜ」
「そうです。主は上手く問題を収めたと思います」
スードも、ランスに同意した。
これ以上はリーンも自分のただの我が儘でしかないと思ったのだろう。
「……それで、具体的にはどう収めたの?」
と、その時の状況を詳しく知りたがるのであった。
「……リューの判断が正しいわ」
リーンは内容を聞いて最終的にはリューを支持した。
まぁ、いつもの事である。
「そうね。私もリュー君の判断を支持するわ。……それにしても元侯爵の部下でそんなに剣の腕が優れているのなら、転封先の北部の新領地に連れていかれそうなものだけど……」
王女リズは何気にリューを名前の方で呼びながら、気になる事を指摘した。
「確かにそうだな……。それにいくらランドマーク家に恨みがあると言っても、そんなリスクを負うものか?というか本当にそいつ、元侯爵のところクビになったのか?俺にしてみたら、違和感しかないけど……。もし、元侯爵の部下のままだったなら、命令で動いている方が、まだ、納得できるんだが?」
ランスが、思わぬ指摘をした。
「……なるほど。それなら、その男の動きにも納得がいきますね。主家には迷惑にならない様に動いているように感じるのも、それなら納得できます」
スードが、ランスの指摘に同意した。
「それが事実なら、個人の恨みに見せたランドマーク家への報復が目的、という事か……」
リューも考えが至らなかった事に、はっとする。
そして、
「ちょっと、お父さんのところに注意喚起してくるよ。僕を仕留められなかったから、次は、本家のランドマーク関係者を狙う可能性もあり得るから」
と、みんなに答えるとリューは『次元回廊』を使ってランドマーク本領に一瞬で戻るのであった。
休憩を終え、出発の為の準備が行われだした頃、リューが戻って来た。
そして、待っていたリーンに、
「お父さんの方からみんなにも警戒するように伝言してもらう事にしたから大丈夫だと思う。まぁ、あの程度の刺客ならお兄ちゃん達も大丈夫だとは思うけどね」
と伝える。
「その男、多分だけど私、少し思い出したわ。リューと私が領境の討伐の時に相手した少し強かった兵士だった気がする。でも、あの時、すぐ逃げ出したから追わなかったのよね」
リーンはリューが本領に戻っている間に思い出した事を伝えた。
「多分その男かもしれない。もし、こっちをまた狙ってくるなら、次は逃がさないよ」
リューはリーンに頷くと、そう誓うのであった。
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