第299話 隠れ家ですが何か?

 リューは、現在、警備隊や騎士団に顔を覚えられておらず、動きが取れる若い衆を率いて王都内を探索している指揮官である魔境の森修行組でもあるアントニオとミゲルを、呼び出した。


 二人は未だ『聖銀狼会』の襲撃犯達の潜む場所を見つけられずにいたので、リューからの呼び出しは叱責を受けるのだと思い、緊張していた。


「二人共、まだ成果は上がってないみたいだね」


「「す、すみません、若様!」」


 言い訳は無しだ。若様はそんなものは求めていないだろう。


 二人はそう思い、すぐに謝罪した。


「え?──ああ、違うよ二人共。二人には一つ確認しておきたい事があって呼んだんだ」


 リューはそう返答すると、これまでの王都での探索エリアを詳しく聞いた。


「……なるほどね。隅々まで探しているのはわかったよ。これで確信が持てた。──二人共、今から王都における竜星組の縄張りを徹底して探してくれる?」


「「自分達の縄張り……、ですか?」」


 アントニオとミゲルはリューの言葉にキツネに抓まれたかのように驚いた顔をした。


「そう、これだけ探して見つからないなら、敵はうちの縄張りに潜んでいると考えた方が良いと思ってね。多分、すぐに見つかると思う」


 リューは確信めいた言い方をした。


「……確かに……。うちの縄張りは探していませんでした。もし、いたら近所の住民から報告が上がると思って高を括っていたところがりますし……。早速、部下を呼び戻して縄張り内を探させます!」


 アントニオはリューの指摘に納得すると、ミゲルと共に執務室を出て行くのであった。


「もし、リューの予想が的中しているなら、『聖銀狼会』も大胆な事をするわね」


 リーンが、呆れた様に口を開いた。


「大幹部のゴドーの発案なのか、その傍にいる兎人族のラーシュか……。多分、ラーシュという参謀タイプの男だろうね。ゴドーという男は、武人タイプの豪快な男だと聞いているし」


「その認識で間違っていないかと思います」


 執事のマーセナルがリューの机から決裁済みの書類をいくつか受け取りながら告げた。


「これであちらの先制攻撃の鼻っ柱をへし折る事が出来そうだけど、大幹部のゴドーとその参謀であるラーシュの処置をどうするかだね」


 この二人は大胆に王都で未だ観光をして戦況を窺っている状況である。


 監視されているのもわかっているから、逃げる事はなさそうである。


 きっと、勝てるとの確信があるからだろう。


 そこがまた、憎らしいところではあるが、今のところは結果を出していたのでこの大胆不敵な二人にはそれなりにリューも評価している。


「まずは、相手の先兵隊殲滅でしょ?うちは人手不足で200人近い先兵を殲滅して捕らえる数を揃える事は出来ないんだからね?」


 リーンが、厳しい指摘をした。


 そうなのだ、現在事業の展開と、ランドマーク本領に兵隊を送っている事から、人手不足は深刻なのだ。


「今回は、さすがに僕も出るよ。リーン、イバル君、執事助手のタンク、アントニオ、ミゲル、それぞれ隊を率いて敵が潜んでいる各所を同時多発的に襲撃して貰うから。スード君は、僕の護衛ね」


「ボクはどうなの?」


 メイドのアーサが、リューのお茶を入れながら聞いてきた。


「アーサは、メイドなんだからこの屋敷を守ってよ」


 リューは笑って注意するのであった。


「なんだよ若様!執事助手のタンクも参加するって事は総動員じゃないか!ボクも参加させてよ!」


「うーん……、仕方ないなぁ……。じゃあ、僕のところの兵を他に回してアーサは僕の下でお願いしようかな」


「やった!ボク、頑張るよ!」


 アーサは、気合十分の様だ。


 いや、アーサ。君が頑張ると無駄に死体が増えるから程々にね?


 リューは、内心ツッコミを入れるのであった。



 数日後──


 リューの元に、竜星組の縄張り内で不審な集団が何か所にもいて、住み着いてるという調査報告が上がって来た。


 近隣住民は、この集団が竜星組の関係者だと思っていたようだ。


 と言うのも、特に悪さをするでもなく、日頃から挨拶もしてくれる。


 それどころかトラブルが起きると間に入ってくれて、事が荒立たない様に目を配ってくれるらしい。


 だから、竜星組の関係者らしいという勝手な思い込みで、竜星組の事務所に誰も報告していなかったようだ。


「完全に馴染んでくれているね。トラブル介入は、騒がれて関係者が来ると自分達が目立つと思ったんだろうなぁ。最後は、竜星組の関係者を装って溶け込んでいるのがわかるよ」


 敵を褒めるリューであったが、


「とはいえ、うちを隠れ蓑に使って、『闇商会』と『闇夜会』に大ダメージを与えたのは事実。きっちりと落とし前を付けさせて貰わないとね」


 と、リューはそう告げると、若い衆の招集を行うのであった。



 兵隊が集まるとすぐに編成して隊に分かれる。


「マルコ、それじゃあ、大幹部ゴドーと参謀ラーシュはよろしくね。──それではみんな、各自、時間を合わせて敵拠点の襲撃を行う。近隣住民に最大限迷惑を掛けない様に動いて下さい。気合入れろ、野郎共!それでは行くよー!」


「「「「おお!」」」」


 集められた若い衆達は、リューの檄に気合を入れた。


 こうして、『竜星組』による反撃が始まるのであった。

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