第289話 人員不足ですが何か?
リューはランドマーク本領のもしもの為に備えて、早速、ミナトミュラー商会、竜星組両方から合計二百人規模の兵隊を出す事にした。
どちらとも古参の腕利きの猛者ばかりだ。
その指揮はランスキーに任せる。
ランスキーは当初、リューの傍から離れる事を渋ったが、僕の代理だからランスキー以外はあり得ないと言われると、断れなくなった。
「わかりやした。このランスキー、本家の為にも、若の顔に泥を塗らないよう粉骨砕身、全力で務めを果たしてきます!」
ランスキーはみんなを代表してそう答えると、その日の夕方にはリューの『次元回廊』でランドマーク本領に出立するのであった。
「それにしてもリュー。こっちは大丈夫なの?ランドマーク本領の人不足も問題だけど、うちも『聖銀狼会』の問題をはじめ、ミナトミュラー商会と竜星組も仕事だけで人不足だったと思うのだけど?」
執務室に戻ると、リーンが心配を口にした。
「……大丈夫じゃないよ。これで仕事だけで手一杯になったから、『聖銀狼会』への対応はちょっと難しいかもしれない……」
リューは本当に困っているのか頭を抱える仕草をした。
「ちょっとそれが一番問題じゃない!どうするの!?」
リーンは驚いてリューに迫った。
それはそうだ。
現在、『闇商会』と『闇夜会』が『聖銀狼会』と抗争を始めているが、身動きが取れない二つの組織に対し、地の利で負けるはずの『聖銀狼会』が、自由に動いて二つの大きな組織を手玉に取っているのだ。
一度の反撃で膠着状態にはなっているが、『竜星組』が助けに入らないとじり貧なのは目に見えていた。
その為に、竜星組は王都に潜む『聖銀狼会』を探しているのだが、ランドマーク本領に人数を割いた為それも難しくなっている。
そういう事から、いつもの情報戦も難しくなっており、下手をすると『聖銀狼会』の王都進出を許してしまう事になるかもしれないのであった。
「作戦を練り直さないといけないね。少ない数で『聖銀狼会』を見つけ出し、叩き潰すにはどうするべきか……」
リューは、正直困り果てていた。
『聖銀狼会』は、土地勘がないはずなのに上手い事王都内に潜伏している。
『雷蛮会』の手引きなら、潜り込ませている部下から情報が流れて来るはずなのだが、どうやら完全に『雷蛮会』は最初の情報収集に利用された後は、そのまま無視されている様だ。
リューは敵がかなり策を練ってやって来ているのは察していたものの、今回は後手に回り続けていた。
ある程度は、リューもその策を見透かしているのだが、それを推測でしかなく事実かどうか確認するには情報が少なすぎた。
情報収集はランスキーとその部下が上手いのだが、それも今はランドマーク本領に出しているから、少ない部下で情報収集と敵を叩く為の物理的な行動を行わなければならない……。
リューが悩んでいると、メイドのアーサが、コーヒーを入れてリューに出す。
「なんだい若様。敵の先兵隊を指揮する幹部二人の居場所はわかっているのなら、ボクが始末してきてもいいんだよ?」
そして、アーサはそう提案して来た。
「……それで済むならいいのだけど、敵は実行部隊の指揮者と接触する行動を一度も取っていないみたいなんだよね。それどころか連日王都観光を楽しんでるみたいだし……」
リューはアーサの提案を否定した。
「でも、その幹部二人が、先兵部隊の親分なのよね?」
リーンが、リューに質問した。
「うん、そのはずだよ。大幹部のゴドーと、兎の獣人族のラーシュの二人だね」
「本当に誰とも接触していないの?」
「監視している部下からは、そう報告を受けているよ」
「じゃあ、間接的には?」
「それも、監視しているから難しいかな」
「連日、王都観光してるのよね?」
リーンは、敵の動きにどうやら疑念を持っている様だ。
「僕も怪しいからずっと監視させているんだけど、能天気に王都のいろんなところを巡っているんだよね……。たまに同じところにも行くくらい満喫してる……、──って、まさか!?」
リューは監視の報告書類を探すと机の上に並べた。
「……観光先の地名の頭文字を取ると、こっちは『タ』、『イ』、『キ』……待機?こっちは、並べると……、襲撃?……そういう事だったのか!」
リューは大幹部ゴドーとその参謀、ラーシュの行動先に意味がある事に気づいたのであった。
「敵も相当最初から、作戦を練っていると思ったけど、ここまでとはね……。きっと敵の実行部隊は幹部二人を遠目に監視して、観光地を確認するだけで良かったんだ。これでは、うちの監視が気付くはずがないよ……。やるな『聖銀狼会』。──これで敵の出方がわかる様になったけど、潜伏先はわからないままか……」
リューが考え込むと、リーンも一緒に考え込んだ。
「二つの組織には、ちょっと耐えて貰うしかないんじゃないかしら?」
とリーンが提案した。
「……『闇商会』と『闇夜会』には悪いけど、敵には何度か襲撃して貰ってその実行部隊の後をうちの部下に尾行して貰うしかないかもね」
リーンの言いたい事を察したリューは、そう口にした。
「そうね。それでうちが少数精鋭で隠れ家を襲撃して確実に潰していくしかなさそう」
リーンもその案に頷くのであった。
「そうなると、人手不足だからボクも参加だよね?」
アーサも乗り気である。
「本当に人手不足だから、僕も参加しないと駄目かも……」
アーサの立候補にいつもなら否定しそうなリューも、駄目とは言わず、それどころか自分の参加も匂わせた。
「それでは自分も参加ですね」
ずっと黙って聞いていたスードがそう口にした。
「意外に総力戦だわね?」
リーンももちろん、リューのいくところには参加である。
「まずは敵の隠れ家を見つけてからだから、みんな気が早いよ?」
リューはみんなに釘を刺すのであったが、なんとか対応策が見つかりそうだと安堵するのであった。
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