第287話 実力の確認ですが何か?

 リューとリーンはスード、ミゲル、そして、若い衆を引き連れて魔境の森から一番近くの村まで移動した。


 そこで全員に水浴びをさせてすっきりさせるのであったが、リューはそれが一段落してランドマーク領都に戻る前にある確認をする事にした。


 それは、スードとミゲル、そして、若い衆の実力を測る事であった。


 祖父カミーザからは、OKが出ているが、個人差もあるだろうし、見誤れば行く先で死ぬ事もあるかもしれないのだ。


 みんなが魔境の森から戻って和気あいあいと話しているところに、いきなり殺気を放って見せた。


 これにはスードが本能的にどこから放たれた殺気の前に飛び出す様に出て注意を取ろうと動いた。


 タゲを取るというやつだ。


 それに連動するようにミゲルが、殺気と若い衆の間に入ってみんなを守ろうと動く。


 そこに若い衆が気付いて周囲の者でとっさに五人編成で陣形を組んで構えた。


「主、この殺気は?」


 スードが、殺気の主が、リューである事にいち早く気づくと、怪訝な顔をして聞いてきた。


「みんなの反応を簡単に確認しておこうと思ってね。これから危険が待ち受ける場所に送り出すからには僕にも責任があるから」


 リューは、そう答えるとみんなを見て確認し、頷いて続けた。


「みんな、良い反応だった。反応が遅い人は外すつもりでいたのだけど、大丈夫そうだね。スード君はもちろんだけど、ミゲルも良い動きしてるのは感心したよ。かなり成長してるから、これなら安心だ」


「……合格という事でしょうか?」


 ミゲルがリューの真意をまだ掴めていない様で聞き返した。


「君の先輩であるアントニオの下で副官として、動いて貰う事にするよ」


「アントニオの兄貴の下で?……わかりました。若様の為にも恥ずかしくない活躍をしてみせます!」


 こっちに来る時は生意気盛り、こっちに来てからは自信喪失気味で臆病に見えたミゲルだったが、完全に自信を取り戻し、責任感を持った部下に育ってくれたようであった。


 リューは満足気に頷くと、今度はスードに向き直る。


「おじいちゃんがまだ、スード君は伸びしろがあると褒めてたから、今の実力をちょっと確認してみようか」


 リューが突然、そんな事を言い始めた。


「それは主、ここで腕試しって事ですか?」


 スードが軽く驚きながら、リューに確認した。


「うん。みんな強くなったという自負もあるだろうし、その中で一番強いスード君の実力がどんなものかで、自分達の立ち位置も変わって来るんじゃないかな」


 リューは彼らが当初の自分よりかなり強くなったという実感があるだろうから、慢心しない様にスードの実力を測ると言いながら、その実、上には上がいる事を教える目的があった。


「……わかりました。自分もどのくらい主に近づけているか確認してみたいです」


 スードはリューの真意を悟る事は出来なかったようだが、リューの提案を承諾した。


「じゃあ、スード君、いつでもいいよ」


 リューは、剣を抜く事なくスードの前に立つ。


 スードは、剣術大会を思い出したのか少し、怯んだ様子だったが、剣を抜いて構える。


 スードは自分の間合いに入れる様に、じりじりとリューとの距離を詰めた。


 なるほど、スード君の今の間合いはこれくらいか。……短期間の割には強くなってるね。


 リューはスードの慎重な動きからそれを確認すると、不意に動いた。


「!」


 スードは、リューの姿が一瞬消えた様に感じたので後ろに飛び退る。


 その一瞬消えたリューが間合いを詰めて現れたのでスードはそのリューに斬り付けた。


「お!よく反応したね!」


 リューは嬉しそうに褒めるとスードの斬撃を剣で跳ね上げ、空いている左手でスードのお腹を殴りつけた。


 スードを体を捻ってかわそうとするが間に合わず、そのまま殴られるとその威力に白目を剥いてうつ伏せに倒れ込んだ。


 倒れたスードは動かない。


 どうやら完全に失神している様だ。


「あらら。加減したつもりだったけど、力入っちゃったかな?」


 ミゲルと若い衆は、魔境の森での滞在期間中、自分達の中でも強かったこの十四歳のスードに対して一目置いていたのだが、自分達のボスであるリューがそのスードに対して圧倒的な強さで勝った事に唖然としていた。


 スードにしたら、みんなに釘を刺す為の見せしめみたいな立ち位置であったが、リューに起こされて正気に戻ると、


「やはり主は強いです……。一瞬でも今の自分なら少しはやれるかもと思った考えが甘かったです」


 と、スードは、お腹を押さえながらそう反省の弁を述べた。


「この短期間での修行で結構よくなっていたと思うよ。これならこれまで以上にスード君には護衛を任せられそうだね」


 リューは笑顔でスードを褒めた。


「す、すげぇ……」


「さすが、若……!あのスードさんをパンチ一発で失神させるとは……!」


「強くなったと自信をもってた自分が恥ずかしい……」


 若い衆達は二人の戦いを見て驚いたり、感心したり、反省したりと反応は色々であったが、これで慢心する事無く『竜星組』の為に尽くしてくれるだろう、とリューは一安心するのであった。


「主……、ところでポーションとかお持ちではないでしょうか……?思ったよりもお腹痛いです……」


 意識を取り戻したスードが、顔を青ざめさせてリューに嘆願した。


「ああ、ごめん!──リーン、回復魔法をかけて上げて!」


 リューは驚いて謝罪すると、慌ててスードを介抱するのであった。

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