第240話 新たな行事ですが何か?

 『自転車』の販売会から数日。


 王立学園の校庭では、貴族の子息や商人の子息などの一部が『自転車』に跨って乗り回す光景が見られるようになった。


 予想以上の売れ行きで、買えない者も続出した為、購入できた者にとってのステータスになっていたのだ。


 なので学校まで馬車に積んで持ち込むと、校庭で『自転車』に乗る事が流行りだしていた。


「(前世の子供時代にもゲーム機を学校に持ち込んで自慢している子がいたけど、いつの時代も変わらないなぁ)」


 リューは教室の窓から校庭を見下ろして苦笑いするのであった。


「『自転車』か……。リューが人気が出ると言ってはいたけど、これほど学校で人気が出るとはなぁ。うちは親父が買ってくれそうにないんだよ……」


 ランスが、残念そうに溜息を漏らした。


「うちも買って貰えないから同じだぞ?──シズのところはラソーエ侯爵がランドマーク子爵に、売って欲しいと直談判に行ったらしいが……」


 ナジンがランスに理解を示しながら、幼馴染のシズのところの話をした。


「ははは……。ラソーエ侯爵は娘の事になると、猪突猛進だからね……。お父さんも流石に断れないから特別に今日の分を回したよ」


 リューが苦笑いしながら答えた。


「……リュー君、ごめんね。私が『自転車』の話をパパにしたものだから……。でも、ありがとう」


 シズがいつものか細い声で申し訳なそうに言うと、優先してくれた事に感謝した。


「いいんだよ。僕もみんなに聞いておくべきだったよ。販売会の成功ばかりが頭にあって気が回らなかった、ごめん」


 リューはみんなにお詫びをした。


「いいんだって。うちは買ってくれないから、聞かれても断っただろうし。ナジンのところはそういうの厳しそうだよな。イバルはうちと同じで経済状況的に厳しいよな?」


 ランスが、名ばかりの男爵家の嫡男に収まっているイバルに話を振った。


「……すまないランス。俺はリューの部下になっているから優先して、スード同様タダで貰っているんだ」


 そう、イバルはこの日から、養子先であるコートナイン男爵家の馬車ではなく『自転車』で通学していたのだった。


「マジか!?という事は、この隅っこグループで持ってないの、俺とナジンの二人だけかよ!」


 ランスはがっくりと肩を落とした。


「それは違うよ。僕とリーンも持っていないから安心して」


 凹むランスをリューが慰めた。


「え?製造元のリューとリーンがなんで持ってないんだよ?」


 ランスが、当然の疑問を口にした。


「お客様を優先する為さ。だから、販促用のものを一台マジック収納に入れているけど、それ以外は無いよ」


 そう答えると、販促用の『自転車』をマジック収納から出して見せた。


『自転車』のフレームには『ランドマーク製・販促用』と、書かれている。


「マジかよ……」


 ランスはそれを見て呆れるのであった。


「あ、でも、販売強化期間が過ぎたら、この『自転車』、特別価格でランスに上げてもいいよ?ナジンの分も同じ販促用で良ければ都合できると思う」


「「本当か!?」」


 ランスはともかくナジンも一緒になって聞き返した。


 どうやらナジンも、密かに『自転車』は欲しかったようだ。


「販促用は、中古品になるから、金貨一枚でいいよ」


「それなら、俺は放課後の親父の手伝いで貯めた小遣いがあるから買えるぜ!」


「自分もそのくらいなら、同じく貯めた小遣いで買える、ありがとうリュー!」


 ランスとナジンは笑顔でリューに感謝するのであった。


「「あ……。その販促用って書いてるのは消せるよな?」」


 感謝しながらも、二人はそこを気にした。


「ははは!もちろん、引き渡す時にはそこは消すから安心して。ちゃんと補助輪、盗難防止用魔石などフル装備で渡すね」


 リューは笑顔で二人を安心させるのであった。


「じゃあ、安心してあとは来週の魔術大会にみんなで臨めるな!」


 ランスはもう次に差し迫っている行事を口にした。


「あ、それは僕達出ない事になっているんだよね」


 リューはランスに断りを入れる。


「今回うちのクラスは、王女殿下、イバル、シズ、自分とランスさ」


 ナジンが指を折りながら、ランスに説明した。


「そうなのか?先生から代表に選ばれたって言われたから、てっきりリュー達と一緒だと思ってたぜ」


 ランスが勘違いを口にした。


「僕とリーンは大会の実行委員側に回ったんだ」


「「「「実行委員?」」」」


 みんな初耳の言葉に首を傾げる。


「そう。僕とリーンの魔法は、大掛かりな結界を張らないと会場を破壊してしまうからという理由で、先生達が務める実行委員側に入る事になったんだ。その分、点数は貰うけどね?」


 ちゃっかりリューはそういう交渉はしていたようだ。


「本当はみんなと一緒に出たかったのだけどね」


 リーンが、残念そうに口にした。


「でも、リューとリーンが別格なのは確かだからな。それに、二人のお陰で自分とランスは控えから繰り上がりしたから、感謝するよ。ありがとう」


 ナジンが、苦笑いしてお礼を言う。


「だから俺、出場できるのか!──ありがとうなリュー、リーン!」


 ランスが自分が代表に選ばれた理由を知り、素直に二人に感謝するのであった。


「みんな、普段通りにやれば、上位進出は間違いないから頑張って。優勝候補は王女殿下だけど、対抗にシズさんとイバル君、大穴にナジン君とランス君だね」


「リューの見立てもやっぱりそうか。他所のクラスの代表も気になるが、うちのクラスだとそんな感じだろうな」


 ナジンはすでに分析結果を出しているようだ。


「こうなったら、みんなで上位を独占するのよ!リューが教えたリュー式魔法術なんだからみんな勝って!」


 出場するみんな以上にリーンが一番気合が入っているのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る