第221話 回想シーンですが何か?

 リューの夏休みは、ランス達友人とのひと時で、楽しい思い出になりつつあった。


 もちろん、ほとんどは忙しく動き回っていたのだが、前世の記憶があるとはいえ、まだ、12歳の少年である。


 それに前世では、そんな楽しい少年時代の思い出も多かったとは言えなかったから、今の生活はとても充実している。


 そんな中、とても充実しているとは言えない者が1人いた。


 国随一の名門学園で問題を起こして退学になり、王都の他にある学校へ転校した人物。


 その者とは、ライバ・トーリッターの事である。


 元々、地方貴族とはいえ伯爵家の嫡男でもあり、成績優秀。


ライバは、現在通う学校ではそれこそ優等生としてトップに立ち、上級生からも一目置かれる存在となっていた。


 しかし、本人は全く満足していなかった。


 だが、ライバは大人しく新しい学校でまじめに勉強している。


 それは、転校の世話をしてくれたのがエラインダー公爵家だったからだ。


 本来なら、嫡男のイバルを裏で操っていたのだから、恨みを買い、世話でなく王都から追放されそうなものであったが、何故かエラインダー公爵はライバの事を見所があると気に入った様子であった。


 お陰で今、トーリッター家の名をそこまで汚す事なく王都で勉強できている。


 だが、ライバにとっては、そんな事はどうでも良かった。


 自分をこんな目に合せたリューへの復讐心でいっぱいであったのだ。


 確かに実力的にリューの方が少し上だったのかもしれない。


 才能もあちらが多少上だったのだろう。


 噂ではその才を評価され、わずか十二歳で騎士爵を賜ったのだという。


 ライバにとって、リューの順風満帆な成功は苦々しいものであり、それにはどう対抗すれば勝てるのかと思い悩んでいた。


 そんな中、ライバの優秀さに嫉妬し、陰で絡んで来る不良学生達がいた。


 もちろん、そんな不良学生などライバの相手になろうはずもなく、返り討ちにしてしまった。


 するとその兄貴分を名乗る地元のチンピラグループが今度はやって来た。


 お金を払えば大目に見てやるという。


 自分が伯爵家の嫡男と知って、金蔓にしようと思ったのだろう。


 だが、ライバはそれも返り討ちにしてしまった。


 流石に今度は、相手も多少は強いと感じたが、それでも今の自分の相手ではなかった。


 ライバは、地元で幅を利かせていたチンピラを返り討ちにした事から、自分が実力的に裏社会ではどのくらい強いのかと興味を持った。


 そこで、絡んできた地元のチンピラグループの拠点に乗り込んでボスを叩きのめすとそのグループを乗っ取ってやった。


 そこで初めて、自分がとても強いのだと満足できたのだ。


 ライバはこうして裏社会にデビューすると、地元に現れた新星として恐れられる様になって行く。


 そんな中、王都でも指折りの組織で、ライバの学校のある地元でも幅を利かせていた『上弦の闇』がもっと大きな裏社会の大組織に潰された事を知った。


 さすがのライバもこの『上弦の闇』には恐れをなして派手な事はしていなかったのだが、急に抑えつける者がいなくなった事で、気持ちが楽になった。


 手下のチンピラ達も自分がこの地元で一番になるチャンスだともてはやした。


 手下達に煽てられるとライバもその気になっていく。


 そして、もうすぐ夏休みだ。


 ライバは、その間に自分のグループをどのくらい大きく出来るか試したくなった。


 それに、力を付ければリューに復讐も出来るだろう。


 まさか、裏社会の人間を自分が引き連れて来るとあちらも想像出来ないはず。


 貴族といっても騎士爵程度、親も子爵でしかない。


 その程度なら、自分が裏社会でのし上がって軽く脅せる程度には力を持てるだろうと算段するライバであった。



 ライバはその考えを次々に実行していった。


 地元の小規模なグループをどんどん力でねじ伏せて行った。


 それこそ雷の如くである。


 気を良くしたライバは手下達に進められるがまま、『雷蛮会らいばんかい』を組織。


 瞬く間に周辺の裏社会のグループに知れ渡る事になった。


 流石にこれはライバも調子に乗り過ぎた。


 地元の小さいグループを飲み込んで行ってたとはいえ、その勢いを見て周辺のそこそこ大きいグループが見過ごすわけも無く、ライバもその大きなグループとの抗争に明け暮れる事になる。


 さらに、そこへエラインダー公爵家から手紙が来た。


 最近、目立つ事をしているな、とだ。


 ライバは流石にこの手紙には震撼した。


 やり過ぎたと思った。


 だが、その手紙の続きには、こう書いてあった。


 資金を提供しよう、とだ。


 エラインダー公爵が何を考えているのかライバには到底及びもつかなかったが、ライバにとって資金は喉から手が出るほど欲しいものであったので、この申し出を受けると、腕が立つ傭兵崩れなどを雇い、抗争に投入、更にはお金をばら撒いて、自分の傘下に入る方が利口だと周辺のグループを説得して回った。


 こうして、ライバが率いる『雷蛮会』は、夏休みの短期間の間に急成長して、元『上弦の闇』の縄張りを飲み込み、こちらに仕掛けて来ていた王都で指折りの組織『月下狼』にも正面から喧嘩を売って飲み込もうとしていくのであった。


「もう、地元どころか王都でも指折りの組織の『月下狼』とも互角の存在だ!これだけ力を得たら、リュー如きはビビって僕にひれ伏すはずだ。また会える日が楽しみだよ!ははは!」


 ライバはそれを想像すると悦に入り、高笑いするのであった。




「ハックション!」


 リューはマイスタの街の街長邸の執務室で大きなくしゃみをする。


「……リュー。あなたまた何か恨みを買っているんじゃない?」


 リーンがリューのくしゃみに反応して、指摘する。


「止めてよ、リーン。流石にもう恨みを買うような事、夏休みだからしてないよ?」


「……でも、リューのそんな大きなくしゃみをする時って、大概恨みを買っている時じゃない?」


「……あははは。本当に止めて。リーンが言うと本当になるから!」


 苦笑いして少し考え込むリューであったが、ライバの事は想像できないのであった。

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