第210話 祭りの後ですが何か?

 祭りの締めである魔法による花火は大盛況であった。


 この舞台裏では、リューやリーン、イバル、魔法が使える部下達が、練習した魔法を大きいものから小さいものを次から次へ上空に放っていった。


 それは普通では夜間に戦場などでやり取りをする信号を主とした魔法であったが、そこに大きな音と、色々な色が出る様に改良したものであった。


 音に関して、信号を目的とした魔法ならば、正直、軍関係者などから見たら無駄に映るであろうが、演出としてこの音にはリューが拘った。


 花火は視覚を刺激するが、音によるびりびりと体を震わせる感触も大事だと思っていたからだ。


 リューの想像通り、お客さんは歓声を上げてその音と、綺麗な景色を見せるこの花火を喜び、楽しんでくれていた。


 後半に向かって打ち上げるペースを加速して行くと、リューは最後の締めにかむろ花火に似た魔法をリーンとイバルの三人で上空に放つ。


 冠花火とは花火が開いてから大きく流れ落ちて、地面近くで消える柳のような雰囲気の花火の事だ。


 リューはこの花火が大好きであったので締めに持って来たのだ。


 これには、招待した貴族の同級生たちはもちろん、その友人知人、家族までひと際大きな歓声を上げると、夜空にぽかんと口を開けている。


 マイスタの街の住民達からも大きな歓声が上がっているのが聞こえて来た。


 これには、リューとリーン、イバルも手応えを感じて視線を交わすと頷き合うのであった。




 こうして締めの花火が終了して、お祭りはお開きになる。


 とは言っても、屋台はまだ、畳む気配が無いので残って楽しむ者は楽しむ。


 王都から招待された者達は、そろそろ帰らないと家に到着する頃には遅くなるので帰り支度に移った。


 招待客達は、今夜のお祭りが最高のものだったと頬を上気させて感想を興行主であるリューに述べると馬車に乗って帰って行く。


「みんなに先に言われてしまったけど、本当に今日の祭り、最高だったぜ!」


 ランスが、帰り際にリューとリーン、イバルに告げる。


 そこにナジンとシズも同意すると、


「ランスの言う通りだ。リュー、今夜は凄い体験をさせて貰ったよ」


「……パパも花火、喜んでいたよありがとう、リュー君」


 と感謝を告げると馬車に乗り込み帰って行くのだった。


 街長邸は一足先に静かになった。


 眼下の街はまだ、騒がしくしているが、メインイベントの花火は終わったのでしばらくすればお開きムードになるだろう。


「イバル君、今日はご苦労様。ありがとう。今日はもう、帰っていいよ。うちの自慢の、もの凄く早い馬車で送るから家まで一時間もかからないと思う」


「リュー、リーン。こちらこそ、こんなに楽しくやりがいのある仕事をさせてくれてありがとう」


「いいよいいよ。今日は大成功だったから、給金はいっぱい弾んでおいたよ!」


 リューは笑顔でそう答えるとお金の入った革袋を渡すと馬車にイバルを押し込んだ。


「え?こんなに!?ちょ、リューこれは、貰い過ぎ──」


「じゃあ、お休み!──御者さん、イバル君を家までよろしく」


 リューはイバルの言葉を最後まで聞かずに馬車の扉を閉めると送り出すのであった。


「もう、イバルの言葉最後まで聞いて上げなさいよ」


 リーンが笑いながら言う。


「今日一番頑張ってたからね。あのまま、話し聞いてたら、いくらか返しそうだからあれでいいの」


 リューはそう答えて笑うと、続ける。


「じゃ、みんな。後片付けもしっかりやるよ!」


「「「へい!」」」


 リューの一声に、部下達はテキパキと動き始めるのだった。


 リューがマジック収納で誰よりもテキパキとゴミを回収していると、その背後に何人もの屈強そうな男達を引き連れた女性がやって来た。


 リーンがそれに先に気づき、リューに声を掛ける。


 リーンの声に気づいたリューは振り返るとそこにはエリザベス第三王女が立っていた。


「ミナトミュラー君、今日はお招き頂きありがとう。気を使われて騒ぎになるのも嫌だから、私はこちらではなく街の方で楽しませて貰ったわ」


「王女殿下!来てくれていたんですね。ありがとうございます!」


 リューは王女殿下の訪問に驚くと感謝を述べた。


「いえ、私こそありがとう。実は父も来ていたのだけど先に帰ったので私が挨拶に来たの」


 え?父って……。


 一瞬、リューも頭が思考停止する。


 王女殿下が訪問←凄い事


 その父も来ていた←ふぁ?


「えー!?──まさか、陛下もお忍びで来られていたのですか……!?」


 驚くリューとリーンであったが、すぐに小声で確認する。


「ええ。最後のあの綺麗な魔法、とても褒めていたのだけど……。王都にまで音が聞こえただろうから王国騎士団が駆けつける前に帰らないといけないとおっしゃていたわ」


「あ……」


 リューは王女殿下の伝えたい事を理解した。


 花火の魔法はその大きな音と眩い光以外に支障は無く、危険性は一切無いのだが、その派手さから音を聞きつけて、一大事と勘違いした騎士団がやって来るだろう、という事だ。


「それでは私も、帰らせて貰います。今日は本当にお招き頂きありがとう」


 王女殿下はリューが察したのを確認すると、くすっと笑って馬車に乗り込み帰って行くのだった。



 この二時間後、王都よりマイスタの街の危機と勘違いして救援に駆けつけた王国騎士団に、街長であるリューが今回の一件を夜分遅くまで説明する羽目になるのであった。

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