第175話 潰しましたが何か?
マイスタの街、北の郊外の森。
まだ、夜も明けない内にリューとリーン、そしてミナトミュラー一家は『闇組織』の最大の資金源である畑を完全に制圧、土魔法で全てを潰してしまった。
それこそ、収穫保存していた葉っぱから、苗や種まで全て土に返した。
だが、施設自体はあまり破壊していない、後でリューが活用するつもりだからだ。
「制圧したのはいいけど、街長としてはどういう理由でこの土地を没収するの?」
リーンが、事後処理をどうするのかリューに聞いて来た。
「それはもちろん、違法植物の栽培とそれを使った薬物の製造の疑いだよね。街長である僕が自ら乗り込んで潰したのだから証拠もいらないし。証拠を残しても街長代理のマルコがルッチに通じて横流しするのは目に見えてるからほぼ全て現場で処分という事で」
そう言いながら、証拠の葉っぱと書類はちゃんと確保してある。
「ここから『闇組織』に責任を問うのは難しいだろうけど、ここで捕らえたチンピラ達は厳罰に処せられるだろうね」
リューは続けてそうリーンに教えると、そのチンピラ達に視線を送った。
縛られたルッチの部下達は、まだ、ことの重大さをわかっていないのか、それとも自分達のボスであるルッチが何とかしてくれると思っているのか、動揺する事無く太々しい表情でリュー達を睨みつけている。
「お前ら、まだ自分達がどうなるかわかってないな?若はお前らを王都の司法に突き出すつもりなんだよ。マイスタの街と違って、あっちではルッチの影響も無く裁かれる事になる。つまり、極刑が待っているんだよ」
ランスキーがルッチの部下達にわかり易く説明すると、にわかにチンピラ達はざわつき始めた。
「僕がわざわざ手間暇かけてこの地元で君達を裁くと思ったの?それよりも王都に違法薬物を蔓延させている犯罪者を裁きたがっている国に引き渡さないわけないじゃない」
リューが笑顔でそう答えると、ルッチの部下達いよいよ動揺して命乞いを始めた。
「君達、そもそもこのマイスタの住民じゃないよね?僕はこのマイスタの街長だよ、他所者の悪党に慈悲をかけると思う?」
リューがそう答えるとルッチの部下達は絶望に打ちひしがれてガックリとうな垂れた。
「じゃあ、みんな連行して頂戴」
リーンが手下達に命令すると、
「へい、姐さんわかりやした!みんな帰るぞ!」
と手下達は頷いて従うのであった。
みんなリーンの事、本当に姐さんで徹底してるのね……。
リューは苦笑いでその光景を見送るのであった。
「若、これからどうするんですか?」
ランスキーがリューに声をかけて来た。
「次は製造工場に向かうよ。もうすぐ夜明けだから『闇組織』の地下通路を使ってそのまま乗り込む事にしよう」
そう言うと、リューは、手下達が押さえた地下通路の入り口に向かうのであった。
こんこん
「……?こんな朝早くあっち側から誰だ?」
マイスタの街側の地下通路の出入り口。
そこの外観は民間の大きな倉庫であったが、内部は違法薬物の製造工場であった。
その一角に、地下通路が繋がっており、外からマイスタの街内に誰にも咎められず葉っぱを運び込む事が出来た。
「……合言葉は?」
見張りが扉の向こう側のノックをしてきた相手に聞く。
「……マルコは四天王最弱、ルッチさんは四天王最強」
正しい合言葉が返ってきたので、見張りは厳重な扉の鍵を開けて相手を迎え入れる。
「……誰だよ、こんな時間に仕事増や──。誰?」
見張りが扉を開けるとそこに立っていたのは薄明りに照らされた1人の子供と美女のエルフ、その背後の闇に紛れて大男が立っていた。
それを確認した次の瞬間には見張りは気を失っていた。
ズドーン
ゴゴゴゴゴ……
マイスタの街に朝早くから、大轟音が響き渡った。
街の北の城壁付近の倉庫通り付近から大きな煙が上がっている。
土煙の様だから火事では無いようだ。
住民達は、土煙を指さして何事かとつぶやき合った。
「あっちの方角は倉庫通りか。ならば倉庫が壊れたのかもしれないぜ?」
「手抜き建築かもな……」
「どこの商会の倉庫かはわからないが最悪だな。場合によっては手伝いに行ってやった方がいいかもしれない」
そんな会話が成されて住民が現場に向かうと、土煙の傍には子供と美女のエルフ、そして、マイスタの街の昔気質の職人達の代表を務めているランスキーが立っていた。
倉庫は跡形も無く残骸の山になり、倉庫通りの一角でなければ、元が大きな倉庫であった事を想像できない有様であった。
「ランスキーの旦那、怪我してないかい?──巻き込まれていない様で良かったな」
状況を理解できない住民達が野次馬も兼ねて傍に立っていた顔役のランスキーに声をかけて来た。
「この倉庫、誰が持ち主かわかるか?」
ランスキーがその野次馬に聞き返す。
「ここは確か……、農業ギルドの倉庫かな?いや、今は確か払い下げされてカモネ商会のものだったな」
「カモネ商会?」
「他所の領地からの輸入品を扱ってる小さい商会さ。あれ?よく考えたらそんな商会がよくこんな大きな倉庫所有してたな……」
野次馬が疑問を持つ中、リューは隣のリーンやランスキーと視線を交わすと、これまで聞いた事がない初めて出てくる商会名に、『闇組織』の中枢の存在を感じるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます