第146話 2年生ですが何か?

 次期生徒会長を自負する三年生ギレールの王女クラス訪問の翌日。


 今度は二年生の四人が教室を訪れていた。


 連日の先輩生徒の訪問にクラスの生徒達は警戒感を強めた。


 特に取り巻き連中にしてみたら、王女殿下への不敬と言ってもいいギレールの態度を咄嗟に糾弾できなかったのだ。


 王女殿下にアピール出来た場面でそれが出来なかったのは、実に痛いと思っていたので、挽回のチャンスとばかりに、訪問してきた二年生徒と王女殿下の間に入って壁を作った。


「何の用ですか?王女殿下に失礼な態度は許しませんよ!」


 女子生徒が、二年生に言い放つ。


 二年生は訪問してまだ、何も用件を言っておらず、礼儀正しく挨拶した後だったので、失礼な態度はこの女子生徒の方だった。


「……まだ何も言ってないのだが。その発言は上級生に対して失礼だと思いますよ」


 二年生のリーダー格と思われる生徒が女子生徒の発言を注意した。


「そうよ、モブーヌさん。そちらの方々はちゃんと礼儀正しく挨拶してくれてるわ。その物言いでは、あなたの方が失礼な態度をとっている事になるわ」


 王女はそう指摘するとモブーヌ嬢に失礼を謝罪させた。


「あの四人は、二年生の四天王って呼ばれてる連中だぜ」


 ランスが、リューに耳打ちする。


「四天王?」


「ああ、二年生は全体的に優秀だが、突き抜けて優秀な生徒がいなくてな。成績トップをあの四人が争っているんだ。それで四天王って呼ばれる様になったらしい。代表して話しているのはその中でも現在テストで一位を取った回数が少し多いという事でリーダー格扱いになっているナランデール伯爵の嫡男ジョーイだ」


「王女殿下、今日は不躾ながらお願いに上がりました」


 ジョーイは王女殿下を見つけると、恭しく頭を下げた。

 他の三人もそれに習って頭を下げる。


「お願いとは何でしょう?」


 昨日の三年生と比べて礼儀を弁えている二年生の態度を見て王女は態度を和らげた。


「聞けば昨日、三年生のギレール殿が王女殿下に次期生徒会役員入りをお願いに参ったとか。こう言っては何ですが彼は自分の権威付けに王女殿下を利用しようとしているだけだと思います。なので彼の誘いを断り、よろしければ……、王女殿下自ら生徒会長に立候補して頂きたいのです。我々二年生は全面的に王女殿下を支持します。現生徒会の四年生は良い顔をしないでしょうが、あちらは数か月後には引退して就職活動ですから無視してよいかと」


「お待ちなさい、二年生のみなさん。例えばですが、あなたが立候補すればよいのではないですか?」


 王女は急な申し出に困惑する事なく正論で返した。


「我々四人は良くも悪くも抜きん出た才能もカリスマ性もありません。立候補しても三年生のギレール殿には太刀打ちできないでしょう。ですが殿下は違います。我々二年生の大半は殿下が立候補されるならば、支持するつもりです。いえ、推薦も考えていますがちゃんと殿下には話を通しておくべきと愚考しました。お願いできないでしょうか?」


「三年生のギレール殿では駄目なのですか?」


 王女は応じる事無く、聞き返した。


「聡明な殿下の目にはギレール殿がどう映りましたか?彼は世間で言うところの天才ではありますが、それを鼻にかけています。その事に目を瞑るにしても彼は最近、王家を侮る発言もしています。誰の影響かはわかりませんが、この王国にあって王家を軽んじる者を学園のトップにする事が許せるわけがありません。そうなると他の三年生ですが、代わる候補が思いあたらず、我々二年生では力不足。一年生とはいえ、王家の一員であり、成績優秀者でもある殿下をおいて他にいないと思ったのです」


 ジョーイは確信をもってそう王女に伝えた。


 その光景を息を飲んで見物しているリューであったが、隣のリーンに話すつもりで、


「僕だったら一年生を殿下の元にまとめて、二年生をまとめ上げている彼を支持する声明を選挙前に出すけどな。そうすればあっちは何も出来ずに終わると思う。それならわざわざ入学したばかりの王女殿下に大変な役割を押し付ける必要はないよね?」


 と言ったのだが、丁度、二年生ジョーイの話が終わり、王女殿下の返答を促す沈黙のタイミングであった為、リューの声は教室の全員に伝わった。


 あ、しまった……!なんでみんなこのタイミングで静かになるの!


 リューは慌てて内心でみんなにツッコミを入れるのであった。


「……ありがとう、ランドマーク君。あなたの言う通りかもしれません。本当ならまだ一年生である私は次期生徒会長選挙に微塵も関わるつもりはありませんでしたが、二年生のみなさんが私を支持してくれているのであれば、そのお礼にリーダーのジョーイ・ナランデールさんを支持、応援する事くらいであれば協力したいと思います」


 断るつもりであった王女は、リューの言葉に感謝するとそう答えた。


 エリザベスにとっては公務もあり、学園での勉学以外の活動の余裕はまだなかったのだ。

 なのでリューの提案はエリザベスにとって文字通り感謝すべき言葉だった。


「……我々も入学したての王女殿下にばかり頼っていては駄目ですね。……わかりました、自分が出馬します。彼の言う様に王女殿下に1年生をまとめて頂ければ自分にも十分勝機があります」


 こうして、リューの一言で次期生徒会長選挙の運命が変わるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る